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月桂樹の芽

『月桂樹の葉SS』のネタ帳です

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犯人はジョシュア(第1話)

2012.01.16 (Mon) Category : memo

※完成しなかったお話の第1話だけ


「たっだいまー!」
ある日の放課後。
ユウタがウーティス寮サロンのドアを開けると、
「あ、あれ?」
テーブルの周りに集まっているアルフレッド、
シルヴァン、ハルヤが揃って沈んだ表情をしていた。
普段は隅の席に座っているアンリは、ドア近くの壁に背を預けて立っている。
アンリは無表情で何を考えているか解らない。
「みんな、どーしたの? 何かあった? てゆうか、ジョシュアは?」
「ジョシュアなら、栗毛の彼女に会いに行っていますよ」
「か、彼女って、もしかして、うちの姉貴!?」
「いいえ、厩舎に行っているんですよ。愛馬のアルセイデスに会いに」
「あ、なんだ。そっちかー」
「全く。変わらないね、彼は」
冷淡にアンリが毒づく。
「何かあると、すぐ厩舎に行くクセは、
生徒代表になっても直らないのだから」
「ジョシュアに、何かあったの?」
「大ありだから困ってんだろ!? ユウタも見てみろよ、コレ!」
アルフレッドはテーブルに投げ捨てられていた雑誌をユウタに突き出した。
雑誌に書かれていた記事。一度目に読んだ時、意味が解らなかった。
思わず指で辿りながら、もう一度、読んだ。
「えっと、『グラント家の当主、ネイサン・グラント氏が何者かに襲われた。
夜中の帰宅時、待ち構えていた男に、頭部を殴打され、
ネイサン氏の傍に居た秘書も氏を守り、負傷。二名は病院にて治療中。
犯人は逃走し、ロンドン警察が行方を追っている。
グラント家はヨーロッパを最大の財閥で敵も多い。
代々、男系の子孫のみが家督を相続し、現在の当主はネイサン氏。
血筋上では甥のジョシュア・グラント氏が後継ぎにあたるが、
ジョシュア氏は先日、ロレート公国の第一王子として正式に認定された為、
事実上、グラント家の後継ぎ争いからは除外されたと言える。
しかし今、ネイサン氏に何かあれば、ジョシュア氏が、
グラント当主の座に返り咲く可能性も否定できない状況か』って、
な、何だよ、これ!? この書き方じゃあ、まるで」
「そうさ! このライターはジョシュアが犯人じゃないかって言ってやがんだよ!
クソッ! マジ腹立つ! だからマスコミは嫌いなんだっ!」
シルヴァンの視線が廊下のほうを向く。すると、次にこう声をかけた。
「あの、皆さん。ちょっと、お茶でも飲んで一息入れません?
僕達がカッカしてても事態は良くなりませんし、少し落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかああ! ジョシュアが犯人扱いされてんだぞ!?」
「あの、ですから、ちょっと声を抑えて」
「レッドの言う通りだよ! ジョシュアが犯人のわけない!」
アルフレッドに続き、ユウタもヒートアップした。
「ジョシュアがそんなことするわけないし、
それに、ロンドンの事件なんだから、ジョシュアには無理だよ」
「彼はずっと島に居たのだからロンドンでの犯行は不可能、とでも言いたいの?」
アンリの冷たい眼差しを浴び、ユウタは少したじろぎながら、
「う、うん。だって、そうでしょ?」
冷たい溜め息を吐きながら、
「君は、本当に頭が良くないね」
「ちょっ」
「彼がどこに居ても犯行は可能だよ。それを誰かにやらせれば良いのだから」
アルフレッドの声が更に大きくなる。
「アンリ、てめえ、じゃあ何か!? 実行犯が別に居て、
その指示をしたのがジョシュアだって言うのかよ!?」
「かどうか、聞いてみればいいじゃない?」
「聞いてみるって、どういう」
「君が黒幕なの? 生徒代表殿?」
「えっ!? ジョシュア居るの!?」
ユウタがキョロキョロする。サロンの中にジョシュアの姿はない。
アンリはもう一度呼びかけた。
「そこに居るんでしょう? 隠れてないで、出てきなよ」
少しの沈黙の後、ゆっくりとドアが開く。
そこにはジョシュアが立っていた。気まずそうに俯いたまま謝った。
「ごめん……みんなが話しているみたいだったから、俺……」
「そんなことはどうでもいいから、僕の質問に答えてくれない?
ネイサン・グラントを襲わせたのは、君なの?」
ジョシュアは目を閉じて、首を横に振った。
喉の奥から絞り出すようにして、一言言った。
「俺じゃない」
目を開ける。グラントの血を引く赤い瞳で皆を見た。
「信じて、貰えないかもしれないけど、俺じゃないんだ」
ダッと駆け出したのは、ウーティスの最年少、ユウタだった。
「何言ってるんだよ、ジョシュア!」
ジョシュアの手を取って、両手で強く握り締めた。
「信じるよ! 俺達に、信じて貰えないかもなんて言わないで!」
「ユウタ……」
真っ直ぐに自分を見上げてくる眼差しに、ジョシュアは気圧されていた。
「ジョシュアは、誰かにそんな酷いことする人じゃないもん!
ジョシュアはいつもみんなこと考えてくれる生徒代表で、
俺にもいつも優しくしてくれるし、だから、だから……」
少し痛いくらい、必死に握り締めてくる手が嬉しかった。
「……ありがとう、ユウタ」
「おい、おい。ユウタだけじゃないだろ?」
アルフレッドは笑顔を見せながら、
「ここに居るヤツらはみーんな、ジョシュアの味方さ! 決まってんじゃん!」
「そうですよ。僕達のことも忘れないで下さい?」
シルヴァンがそう言うのに続いて、ハルヤも頷いた。
「すまない……ありがとう、みんな」
ウーティス寮の仲間達が自分を信じてくれる。
それだけでジョシュアは、今後誰にどんなことを言われても、
大丈夫だと心の底から思った。パン、パンと手を叩く音がする。
「馬鹿だね、君達は。まだ何も解決してないでしょう?」
手を合わせていたのはアンリだった。
「三流の感動ドラマごっこはそのくらいにしてくれる?
役者が混ざってると、話が下手に盛り上がって困るよね」
「あんだとぉ、アンリ!」
「まあ、まあ、レッド」とシルヴァンが笑顔で宥める。
不貞腐れながらもアルフレッドはソファに腰を下ろした。
シルヴァンは冷静な面持ちになり、話し始めた。
「確かに、アンリの言う通り、ハッピーエンドはまだ迎えていません」
白く長い人差し指が立てられる。
「ジョシュア以外の誰かが、グラントのご当主に危害を加えた。
犯人の狙いもまだ解りません。ネイサン・グラント本人を狙っての行動なのか、
あるいは、加害者として、ジョシュアの名を出すことが目的なのか」
「そんな! どうして!?」
ユウタが叫ぶ。シルヴァンは頷きながら、
「そうですね。『どうして』、そこが問題です。どうして今更。
ジョシュアを狙ったのであれば、時期が遅過ぎます」
「え? 遅過ぎるって、どういうこと?」
ユウタに疑問に、同じ日本人のハルヤがぼそりと答えた。
「ジョシュアは、もう、王子様だから?」
「そうです。ジョシュアは既にロレート公国の、
王位継承権第一位として、正式に認められました。
その時点で、グラントとは縁が切れたようなものなんです。
グラントの後継ぎ問題からエスケープできた、という意味では、ですが」
「ゆくゆくはロレートの王様になる予定だから、
グラントの当主にならない、ってことだよね?」
「ええ。ですから、グラント側のトラブルはもうないだろうと、
僕、個人的には、もう安心していたんですが」
「僕も、そう思ってた」
シルヴァンに同意したのはアンリだった。
「ロレート側でなら、何らかの抗争に巻き込まる可能性はあるだろうけれど、
グラント側で揉める理由は考え難い。
ジョシュアがロレートの王子様になったことで、
一番喜んでいるのは、お荷物が居なくなったグラントだろうから」
「お、お荷物って、てめえは、さっきから、言い難いことをズバズバと!」
「良いんだよ。アンリの言う通りだから」
ジョシュアは微笑みながら、ありがとうレッド、とお礼を言った。
その一言ですっかり毒気を抜かれたアルフレッドは、
何か小さく呟きながら、ソファに腰を下ろした。
「これから、どうすればいいの?」
「決まってるでしょう? さっさと生徒代表室に行って、
警備組織に連絡すれば良いんだよ。
もちろん、向こうも知ってることだろうとは思うけれど」
「でも、俺の口から、何て言えば……」
「馬鹿なの? 『俺を守れ』だよ。他に言うことないでしょう?
突っ立ってないで、さっさと行けば?」
「う、うん。すまない。じゃあ、俺、行ってくるよ」
そう言って、ジョシュアは部屋を出て行った。
サロンには五人の寮生達と重い空気が残っていた。
「俺も、ジョシュアは犯人じゃないと思うけど」
最初に口を開いたのは、それまで殆ど黙っていたハルヤだった。
「でも、そうだとしたら、一体誰がジョシュアの伯父さんを」
「そうですねえ」
シルヴァンが相槌を打つと、つまらなそうにアンリが言った。
「グラント家当主が襲われると得をする人、が犯人でしょう?」
「だから、それがダレだって話だろ!?」
アルフレッドがアンリに噛み付く。
「絞り込むのは難しいでしょうね。グラントは、敵が多過ぎますから」
「多過ぎるって、そんなに恨まれてる家なのかよ?」
「知らないの?」
自身のサン・ジェルマン家も、グラント家のライバルにあたるアンリは冷笑する。
「ヨーロッパで、最も恨まれてる家がグラントだよ?」

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