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月桂樹の芽

『月桂樹の葉SS』のネタ帳です

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2026.07.09 (Thu) Category : 

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マジプラス@ジョシュア

2010.04.20 (Tue) Category : memo

「妃殿下」
振り向いて下さらない。
何か考えごとをされているのだろうか。窓の向こうを見たまま、動かない。
臣下はもう一度「妃殿下」とお呼びしたが同じだった。
「##NAME1##様」
お名前でお呼びすると、肩がビクッと跳ね、「は、はいっ」とこちらを向いた。
その初々しさは、大公家に数年仕えている臣下には、微笑ましかった。
「妃殿下と呼ばれることに、まだ慣れて頂けていないようですね」
妃殿下は俯かれ、すみません、と仰った。
「いえ。妃殿下はつい先日まで、日本の一般家庭で暮らしておいででしたから無理もないでしょう。
次第に慣れて頂ければ良いのです。ご自分がロレートのプリンセスだということに」


ここはロレート公国。
さる建国記念式典にて、ジョシュアの王位継承権復帰と共に、その婚約者として##NAME1##は発表された。
ジョシュアの学院卒業後、##NAME1##は彼と一緒にこの国へやってきた。
大々的な結婚式も済ませ、大公家の邸が##NAME1##の新たな住まいとなったのである。
今日の日中は公式行事があり、カーディス国王陛下、ジョシュア殿下と一緒に、
五時間にも及ぶ儀式に出席してきたのである。
但し##NAME1##はスピーチなどの出番はなく、
今日は、ただ大人しく座っていることが##NAME1##の仕事だったのだが、
たくさんの人とカメラの前に居たことから、どうしても気が張っていた。
国民から「プリンセスー!」と呼ばれれば、笑顔で手を振らなくていけないし。
儀式が終わったあとは、どっと疲れを感じた。気疲れというやつだろう。
「妃殿下も今日はお疲れでしょう。私はもう下がりますので、今宵はごゆるりとお休み下さい」
「はい。ありがとうございます、ホワイトさん」

プリンセスと決まってから、##NAME1##には何人もの臣下やメイドさんが付いた。
今、目の前に居るのは、ブラウン・ホワイトさん。
背が高く、綺麗な長い髪を持つ、超絶イケメンである。
他の臣下の人から聞いた情報によると、
ホワイトさんは、33歳。独身。性格はバカが付くほどマジメ。仕事バカでもある。
まあ、臣下としては、よくできたヤツだから、仲良くしてやってよ、姫サマ。
……とのこと。臣下の方がそう言っていたのであって、##NAME1##の主観ではない。
そう言えば、茶髪あの人は、陛下の臣下らしいが、随分軽いかんじの人だった。
皇室の中にもああいう――言葉は悪いが――チャラいノリの人が居るんだなと少し驚いた。ちなみに彼もイケメン。
なんでも、ホワイトさんは元はカーディス陛下に仕える臣下の一人だったそうだが、
ジョシュアと##NAME1##がロレートに来たことで、
陛下直々の命により、殿下・妃殿下の専属へと異動になったらしい。
肩書き上はジョシュアの側近となっているが、##NAME1##のことも同じように世話してくれる。
二人に付く従者の中で、おそらくトップの地位にあるのがホワイトさん。
きっと、カーディス陛下から厚い信頼を受けての結果だろう。
初めてホワイトさんに会った時は、なんだか冷たい第一印象で、厳しそうな人だなと思ったものだが、
毎日顔を合わせ、少しずつ話すようになってみると、
仕事はできるし、よく気を遣ってくれるし、本当は優しい人だと感じてきたところだ。とにかくカッコイイし。
どうでもいいことだが、いや、そうでもないが、
この邸に居る臣下の皆さんは、イケメン率が高過ぎる。顔で選んだのかと思うくらい美形揃いだ。
中でも、カーディス陛下の側近であるラルヴィス・レイナさんという人は、
初めて見た時は、女性かなと思ったくらい綺麗な人だ。
そういった意味でもドキドキする新環境だ。
「あの、妃殿下?」
「は、はい。何でしょうか、ホワイトさん」
「恐れながら申し上げますが、私のことはホワイトと呼んで下されば良いのですよ?
私は貴女にお仕えする者なのですから」
「はい。すみません。でも、ホワイトさん、私より年上ですし」
「年齢など関係ございません。貴女は、高貴な御方なのですから」
「そんな……私に流れてるのは庶民の血ですよ」
そこで何故か微笑まれた。
「妃殿下は殿下と同じく、控えめな方なのですね」
謙遜でも何でもなく、どうしようもない事実なのだが。



この邸には、月桂樹の庭があると聞いていた。
ロレート大公家は古くから聖アルフォンソ学院との繋がりがあり、学院出身者は多いと聞いた。
そのうちの一人が、卒業後、学院の象徴とも言える月桂樹の森を、この庭に再現したのだ。
本物の広大な森と規模は違うが、月桂樹に囲まれた空間がそこにはある。
何代にも渡って、ロレート大公を影で支え、癒やしてきた森。
大公ではない自分では、おこがましいかもしれないが、##NAME1##もその森に行ってみたくなった。


「誰かと思えば、うちの姫君じゃないか」
声をかけたのは、カーディス国王陛下だった。
「どうした、こんなところで」
「私は別に。陛下こそ何してるんですか、こんなところで」
「俺も別に、さ。それより、国民の目のないところで、『陛下』なんて呼ばなくていい。
姫君は、俺の甥っこの嫁なんだから、義理の姪っこだろう?
俺のことは『カーディスおじさん』で良いんだぞ?」
「無理です、そんな呼び方。でも、もし、許して頂けるなら、
カーディスさんってお呼びしても良いですか?」
「なかなかだ。姫君の好きに呼べばいい」
「カーディスさんも、その『姫君』って呼び方、止めて貰えると嬉しいです。
私は貴方の姪っこなんだから、##NAME1##で良いです」
「それは失礼した。そうだな。確かにフェアじゃない。
しかし、あいつの嫁を、他の男が気安く呼び捨てて、あいつが気を悪くしないといいがな」
「ジョシュアのこと言ってるんですか? 彼はそんな心の狭い人じゃありませんから大丈夫です!」
「はははっ! へえ。意外に気が強いところもあるじゃないか」
「え? すみません、失礼なことを言って」
「さては、今まで姫らしくしてようと猫を被っていたな?」
「いや、別に、そういうわけじゃ……」
「無理に自分を繕っても、自分が疲れるだけだぞ。
身分が変わったからと言って、自分まで変える必要などない。もっと本性を出せ」
##NAME1##は、はっとした。
「常に自分らしくあれ。皇族の先輩として、俺がお前に言ってやれるのは、そのくらいだ」
普通、一国の王ならば、「常に姫たる自覚を忘れるな」などと言いそうなものだが。
彼が『規格外の王』と呼ばれる所以が解ったような気がする。
「……でも、カーディスさんの場合は、本性出し過ぎのような気がしますけど?」
「良いぞ、その調子だ」
国王は笑っていた。

「##NAME1##」
ジョシュアの声だ。邸のほうから駆けて来る。
「ここに居たんだね。部屋に居なかったから、探してしまったよ。……あっ、カーディス」
「よう。すまんな。お前の姫を借りていた。
心配するな。少し話をしていただけだ。そうだろう、##NAME1##?」
「はい」

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マジプラス@ソクーロフ

2010.04.20 (Tue) Category : memo

聖アルフォンソ島の旧市街。ここ一帯は古い建築物が保存、維持されている。
かつて、この島に逃げ延びた貴族や芸術家が暮らしていたと言われる地区だ。
まるでモノクロフィルムだった頃のフランス映画のような、古き良き街並み。
現在は聖アルフォンソ島の高級住宅街となっているその一角に、三階建ての高級マンションがあった。
これは十九世紀初頭に建築、歴史的価値が高い建造物だ。
内装は当時の面影を残しつつ、部屋は現代人が暮らし易いようリフォームされている。
その最上階、三階の一室がソクーロフと##NAME1##の新居だった。

ある朝。##NAME1##はベッドの中で眠っていた。
誰かにそっと髪を撫でられて、##NAME1##は目を覚ました。
「すまない。起こしてしまったね」
目に映ったのは先日結婚した彼。
既に身支度が済み、『ソクーロフ博士』の姿になっている。
もうそんな時間かと思い、##NAME1##はガバッと身を起こして、時計を見た。
しかし、時刻は朝五時。出勤するには早過ぎる。
ソクーロフは##NAME1##の肩に手を置いた。
「急患でね。今、シュヌーシア寮から連絡があったから診てくるよ。
今日は一緒に朝食を摂れないね。まだ早いから、君は寝ていなさい?」
ソクーロフは##NAME1##の顔に近付き、
「行ってくるよ」
彼の背がドアの向こうに消えた。

寝ていなさいと言われたが、せっかく目を覚ましたのだから起きたほうがいいだろうか。
けれど、なんだか身体が重い。ベッドに貼り付いているかのようだ。
朝早いし、身体もまだ眠いのだろう。##NAME1##は再び眠りについた。

次に目を覚ました時、昼過ぎだった。
目覚ましのアラームは鳴り終わった形跡がある。
自分に聞こえなかっただけらしい。
##NAME1##は引き摺るようにして、身体を起こす。
寝過ぎたせいか具合が少し悪い。
彼が一度家に戻ってきた様子はなかった。早朝出て行って、そのまま仕事中なのだろう。
とにかく起きなきゃ。のろのろと活動を開始する。遅い朝食を摂ることにした。

その夜、ソクーロフが帰宅した時。
「おや?」
##NAME1##の顔を見るなり、彼は眉間に皺を寄せた。
すっと手を伸ばし、##NAME1##の額や首に触れた。医師の手が体温を感じ取る。
「37度8分といったところか。すまない、朝まで傍に居たのに。
急患が出たからと言って、一番大切な人の初期症状を見逃すなんて」
##NAME1##の肩に手が置かれる。
「診察、させてくれるね?」



「今日、保健室行ったら、違う先生が居たんだ。博士、風邪なんだって」
「医者のくせに? 使えないね」
「アンリ。博士に噛み付くなよ」



ベッドにはソクーロフが横たわっている。
その傍で##NAME1##は行ったり来たりしながら、病人の看病をしていた。
思いきり不慣れ丸出しで段取りは非常に悪かった。
病人がお医者様なので、解らない点は彼に聞きながら世話をした。
病人用の食事は、##NAME1##にはおかゆしか思い付かなかった。
日本人でない彼の口に合うのか解らないが、それしかできないので、
とにかく愛情だけはたっぷり込めて作った。
「美味しいよ、オートミールのような料理なんだね。これなら消化も良さそうだ」
彼の口にも合ったようで、##NAME1##はほっとした。
おかゆは完食できたし、食後には彼自身が選んだ薬も飲んだ。
本人曰わく、明日には回復するだろうとのことだったし、
大事に至らず済みそうで、##NAME1##も一安心といったところだ。

今、彼はベッドの中に、##NAME1##はその傍に座って、
のんびりとした夜を過ごしていた。それまでバタバタしていたのがウソのように、ゆっくりとした時が流れている。
「ああ。本格的に風邪を引いたのは、随分と久し振りだ」
彼が呟く。今日は眼鏡をしていない。
「医者が自らの健康を管理するのは義務だからね。常日頃から、できる限りの予防はしている。
けれど、今日はこの有り様だ。
保健室には他の医師に来て貰っているし、医師失格だね。
これは病欠ではなく、ただのサボタージュだ」
そんなこと、と##NAME1##が言いかけたが、彼は首を横に振った。
「こうなることは、昨夜の段階で解っていたからね。
薬を飲んだとは言え、まだ完治していない君と、
濃密な接触をしたら、きっと風邪が移るだろうとね」
横たわる彼が手を伸ばしてくる。
「だけど、いや、だからこそ、私は君に触れたかった」
彼の手は##NAME1##の指先を捕まえた。まだ少し熱い手だ。
「昔、子供の頃に、私がインフルエンザになったことがあってね」
彼は唐突にそう呟いた。
「高熱が出る種類が流行っていたんだ。
医師だった父は忙しい時期で、家に帰ってこない夜も頻繁にあって」
寂しかったでしょうね、と##NAME1##が言うと、彼は微笑んだ。
「いいや。父が居ない夜を寂しいと思った記憶はあまりないんだ。
子供心にも、既に慣れていたんだろうね。それよりも彼女が」
そこでソクーロフは一度深呼吸した。ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「父が居なくても、普段と何も変わらず、
平然と赤いマニキュアを塗っている母を見たことのほうが鮮明に覚えてる。
彼女は彼が居ても居なくても変わらない。
ずっと自分のことだけを気にしてる。そういう人だったから」
息が熱い。自分の話は殆どしないタイプの彼が、自らの過去を話している。
まだ熱のある状態で喋るのは苦しいだろうに、今日の彼は語るのを止めなかった。
##NAME1##は彼の言葉を聞き続ける。
「私が熱を出した時も、父は傍に居なかったし、
風邪だからと言って、母に優しくして貰ったこともない」
ソクーロフは##NAME1##を見上げる。
「だから、今日は、嬉しいんだ。
君が当たり前のように、消化に良い料理を作ってくれたり、
付きっきりで世話をしてくれることが、本当に、嬉しいんだ」

「もしかしたら、急患が出ると、私が患者を必要以上に手厚く世話してしまうのは、
私が子供の時に思い描いた、理想の両親の姿を模倣したから、かもしれないね」

「ああ、まただね。君が傍に居ると、知らない自分に気付かされる。
私はかくも、脆く幼い人間だったのかと思い知らされるよ」




マジプラス@アイヴィー2

2010.04.20 (Tue) Category : memo

警備本部。
アイヴィーは理事会への定期報告書をパソコンで作成しているところだった。
「締まりのない顔ですね」
隣の席から冷たい言葉が飛んできた。
副司令官のラインハルト・クロイツである。
「どうせ奥様のお顔でも思い出していたんでしょう?
これだから嫌だったんですよ。業務に差し支えるようでは困ります」
「ダ、ダイジョブだって。そんなコワイ顔しないでよ、クロちゃん」
「あまり言いたくはありませんが、ご結婚されてから、貴方は変わりました。残念です」
「そう? どこが?」
「私が少し目を離すと職務怠慢気味だった貴方が、
定時で上がれるよう、雑務はテキパキと終わらせるようになりましたし」
「うん……え、良いことじゃない?」
「以前は退勤時刻になっても職場でダラダラしていたのに、
今では、そそくさとお帰りになるし」
「うん……てか、昔から、時間になったらさっさと帰れって言ってたのクロちゃんじゃ……」
「何より、変わったのは、目ですが」
「目?」
「ご自分では解らないでしょうね。私は、貴方が時折見せるあの目が」
「え?」
「いえ。報告書作成中、失礼しました。どうぞ続けて下さい」

パパッと文章を書いて、メール送信。大して時間はかからなかった。
夕方の定期ミーティングは、ネット参加ではなく、生徒代表室まで足を運んだ。

それもサクサク終わり、アイヴィーはソクーロフと共に生徒代表室を出た。
廊下の窓から見える空も夜に近い色になっていた。
「ねえ。ソクちゃん、今夜……あ、いや、何でもない」
「私の顔を見ると、反射的に夕食に誘ってしまう、か」
「ゴメン。ついクセで」
「そう言えば、最近は行っていなかったな。お前が一人暮らしを止めてから」
白衣の内側から出てきたメスが、アイヴィーの頬に当てられる。
「彼女を泣かせるようなことはしていないか?」
「し、してないですから、メスは止めて……」


仕事用の車でアイヴィーは自宅に向かう。
海の側にあるコテージが見えてきた時、窓に明かりが灯っているのも見えた。
一人暮らしの時には有り得なかった風景だ。
些細なことだが、ハンドルを握りながらニヤついてしまう。
クロイツに「締まりがない顔」だと注意されたことを思い出す。
ニヤニヤしながら帰宅するのもヘンかなと思い、
自分の頬に触れ、一度深呼吸してから、ドアを開けた。
すると、そこに##NAME1##が立っていた。車の音で帰ってきたことが解ったのだろう。
おかえりなさい、と言われ、アイヴィーは少し照れながら、
「た、ただいま」


二人で夕食を食べた後。アイヴィーは伝言を思い出した。
「あ、そだ。あのね? さっきソクちゃんに言われたんだ。
今度一緒に飲みに行かないかって、##NAME1##ちゃんと俺とソクちゃんの三人で。
##NAME1##ちゃん、どーする?」
「行く!」と##NAME1##が即答する。
「ちょ、ちょっと、##NAME1##ちゃん。そんな嬉しそうにしなくても……」
アイヴィーは少しいじける。
「前から思ってたけど、##NAME1##ちゃんって、
ソクちゃんのこと好きだよね……でも、イチバンはっ」
俺でしょ!? そう言いそうになった自分を止めた。
何、妬いてんの、俺。結婚してくれたんだからイチバンは俺に決まってんじゃん。
アイヴィーはそう思い直し、明日の話をした。
「それよりさ! 明日、俺、休みだから、一緒に出かけたいんだけど……イイ?」
##NAME1##が頷く。
「ヨカッタ。でね? 明日はちょっと早起きして、市場に行かない?
##NAME1##ちゃん、まだ行ったことないでしょ?」


マジプラス@アイヴィー3

2010.04.19 (Mon) Category : memo

翌朝。いつもより早起きをして、市場に出かけた。
すごい活気である。市場のおじさんやおばさんは、
アイヴィーの姿を見ると、声をかけてくれた。みんな、アイヴィーを知っているようだ。
「らっしゃい! おっ! 新婚のアイヴィーじゃないか!」
「そちらがウワサの嫁さんかい? 可愛いねえ」
「アイヴィーを貰ってくれてありがとな、お嬢さん!」
「結婚する気がなさそうだったのに、こんなべっぴんさんを捕まえてるなんてなー!」
「毎度あり! ついでにコレも持っていきな! 結婚祝いだよ!」
「よし、うちからも結婚祝いだ。持ってけドロボー!」
市場を出る時には、アイヴィーも##NAME1##も大荷物になっていた。
いったん、駐車場に戻り、車のトランクに荷物を入れた。
今日二人が乗ってきたのは、シルバーグレイの車、アストンマーチン・V12ヴァンキッシュ。
アイヴィーが所有する三台の中で一番のお気に入りだ。
荷物を車に預けた後は、彼がよく利用するカフェでブランチ。
そこでも二人はカフェ店員のお兄さんに「結婚おめでとう」と言われ、
##NAME1##が頼んだカフェラテにはハートのラテアートが描かれていた。


夕暮れ時。二人は車に乗り、海沿いの車道を走っていた。
「##NAME1##ちゃん」
呼ばれて、助手席から隣を向く。
ハンドルを握る彼の背景に海が広がっている。まもなく夕陽が海に沈む。
「今日は朝から一日付き合ってくれて、ありがとね。
俺、##NAME1##ちゃんと一緒に歩けて、超楽しかったよ」
私も、と##NAME1##が言う。
「でも、みんなに新婚だ新婚だーって声かけられちゃったね。
もしかして、ちょっと騒がし過ぎた? 嫌だったかな?」
嫌な筈がない。島の人達は、アイヴィーが好きなのだ。
彼が結婚したことをみんなが喜んでくれた。
##NAME1##は、今日一日、とても誇らしかった。
多くの人に好かれている彼が。
そして、そんな彼が選んだのが自分だという奇跡さえも。
あまりにもたくさん、擦れ違う人々や、お店のご主人に「おめでとう」と言われたので、
まるで島中に祝福されたような気持ちだった。
##NAME1##は、皆さんに祝って貰えて嬉しかったと彼に伝えた。
「そっか、ヨカッタ」
オレンジ色の太陽が海に落ちていく。
「俺ね、ホントのこと言うと、今日は、みんなに自慢したかったんだ」
##NAME1##は「何を?」と尋ねる。
「あ、ソレ聞いちゃう? もちろん『俺は##NAME1##ちゃんと結婚したんだぞー!』ってコト。
俺、島のみんなに、##NAME1##ちゃんを見せびらかしたかったんだ、俺のお嫁さんを!」
ひひひ、と笑った。


fin

マジプラス@アイヴィー3

2010.04.19 (Mon) Category : memo

翌朝。いつもより早起きをして、市場に出かけた。
すごい活気である。市場のおじさんやおばさんは、
アイヴィーの姿を見ると、声をかけてくれた。みんな、アイヴィーを知っているようだ。
「らっしゃい! おっ! 新婚のアイヴィーじゃないか!」
「そちらがウワサの嫁さんかい? 可愛いねえ」
「アイヴィーを貰ってくれてありがとな、お嬢さん!」
「結婚する気がなさそうだったのに、こんなべっぴんさんを捕まえてるなんてなー!」
「毎度あり! ついでにコレも持っていきな! 結婚祝いだよ!」
「よし、うちからも結婚祝いだ。持ってけドロボー!」
市場を出る時には、アイヴィーも##NAME1##も大荷物になっていた。
いったん、駐車場に戻り、車のトランクに荷物を入れた。
今日二人が乗ってきたのは、シルバーグレイの車、アストンマーチン・V12ヴァンキッシュ。
アイヴィーが所有する三台の中で一番のお気に入りだ。
荷物を車に預けた後は、彼がよく利用するカフェでブランチ。
そこでも二人はカフェの「結婚おめでとう」と言われ、
##NAME1##が頼んだカフェラテには可愛いラテアートでハートのイラストが描かれていた。


夕暮れ時。二人は車に乗り、海沿いの車道を走っていた。
「##NAME1##ちゃん」
呼ばれて、助手席から隣を向く。
ハンドルを握る彼の背景に海が広がっている。まもなく太陽が海に沈むところだ。
「今日は朝から一日付き合ってくれて、ありがとね。
俺、##NAME1##ちゃんと一緒に歩けて、超楽しかったよ!」
私も、と##NAME1##が言う。
「でも、みんなに新婚だ新婚だーって声かけられちゃったね。
もしかして、ちょっと騒がし過ぎた? 嫌だったかな?」
嫌な筈がない。島の人達は、アイヴィーが好きなのだ。
彼が結婚したことをみんなが喜んでくれた。
##NAME1##は、今日一日、とても誇らしかった。
多くの人に好かれている彼が。
そして、そんな彼が選んだのが自分だという奇跡さえも。
あまりにもたくさん、擦れ違う人々や、お店のご主人に「おめでとう」と言われたので、
まるで島中に祝福されたような気持ちだった。
##NAME1##は、皆さんに祝って貰えて嬉しかったと彼に伝えた。
「そっか、ヨカッタ」
オレンジ色の太陽が海に落ちていく。
「俺ね、ホントのこと言うとー、今日は、みんなに自慢したかったんだ」
##NAME1##は「何を?」と尋ねる。
「あ、ソレ聞いちゃう? もちろん『俺は##NAME1##ちゃんと結婚したんだぞー!』ってコトだよ。
俺、島のみんなに、##NAME1##ちゃんを見せびらかしたかったんだ、俺のお嫁さんを!」
ひひひ、と笑った。


マジプラス@アイヴィー2

2010.04.19 (Mon) Category : memo

警備本部。
アイヴィーは理事会への定期報告書をパソコンで作成しているところだった。
「締まりのない顔ですね」
隣の席から冷たい言葉が飛んできた。
副司令官のラインハルト・クロイツである。
「どうせ奥様のお顔でも思い出していたんでしょう?
これだから嫌だったんですよ。業務に差し支えるようでは困ります」
「ダ、ダイジョブだって。そんなコワイ顔しないでよ、クロちゃん」
「あまり言いたくはありませんが、ご結婚されてから、貴方は変わりました。残念です」
「そう? どこが?」
「私が少し目を離すと職務怠慢気味だった貴方が、
定時で上がれるよう、雑務はテキパキと終わらせるようになりましたし」
「うん……え、良いことじゃない?」
「以前は退勤時刻になっても職場でダラダラしていたのに、
今では、そそくさとお帰りになるし」
「うん……てか、昔から、時間になったらさっさと帰れって言ってたのクロちゃんじゃ……」
「何より、変わったのは、目ですが」
「目?」
「ご自分では解らないでしょうね。私は、貴方が時折見せるあの目が」
「え?」
「いえ。報告書作成中、失礼しました。どうぞ続けて下さい」




「ソクちゃん、今夜……あ、いや、何でもない」
「私の顔を見ると、反射的に夕食に誘ってしまう、か」
「ゴメン。ついクセで」
「そう言えば、最近は行っていなかったな。お前が一人暮らしを止めてから」
白衣の内側から出てきたメスが、アイヴィーの頬に当てられる。
「彼女を泣かせるようなことはしていないか?」
「し、してないですから、メスは止めよ? アブナイから!」


仕事用の車でアイヴィーは自宅に向かう。
海の側にあるコテージが見えてきた時、窓に明かりが灯っているのも見えた。
一人暮らしの時には有り得なかった風景だ。
些細なことだが、ハンドルを握りながらニヤついてしまう。
クロイツに「締まりがない顔」だと注意されたことを思い出す。
ニヤニヤしながら帰宅するのもヘンかなと思い、
自分の頬に触れ、一度深呼吸してから、ドアを開けた。
すると、そこに##NAME1##が立っていた。車の音で帰ってきたことが解ったのだろう。
おかえりなさい、と言われ、アイヴィーは少し照れながら、
「た、ただいま」


二人で夕食を食べた後。アイヴィーは伝言を思い出した。
「あ、そだ。あのね? さっきソクちゃんに言われたんだ。
今度一緒に飲みに行かないかって、##NAME1##ちゃんと俺とソクちゃんの三人で。
##NAME1##ちゃん、どーする?」
「行く!」と##NAME1##が即答する。
「ちょ、ちょっと、##NAME1##ちゃん。そんな嬉しそうにしなくても……」
アイヴィーは少しいじける。
「前から思ってたけど、##NAME1##ちゃんって、
ソクちゃんのことも好きだよね……でも、イチバンはっ」
俺でしょ!? そう言いそうになった自分を止めた。
何、妬いてんの、俺。結婚してくれたんだからイチバンは俺に決まってんじゃん。
アイヴィーはそう思い直し、明日の話をした。
「それよりさ! 明日、俺、休みだから、一緒に出かけたいんだけど……イイ?」
##NAME1##が頷く。
「ヨカッタ。でね? 明日はちょっと早起きして、市場に行かない?
##NAME1##ちゃん、まだ行ったことないでしょ?」


マジプラス@ソクーロフ

2010.04.18 (Sun) Category : memo

■場所の説明から
聖アルフォンソ島の旧市街。ここ一帯は古い建築物が保存されている。
かつて、ある有名な貴族達が暮らしていたとの話も残る区域だ。


三階建ての高級アパルトマン。
古い建物だけれど、中は近代的につくりかえてある
古くて風格がある
建物自体が街の歴史的な景観の一部として成立している


地の文は姉貴視点になるように
---

##NAME1##はベッドの中で眠っていた。
誰かにそっと髪を撫でられて、##NAME1##は目を覚ました。
「すまない。起こしてしまったね」
目に映ったのは先日結婚した彼。
既に身支度が済み、『ソクーロフ博士』の姿になっている。
もうそんな時間かと思い、##NAME1##はガバッと身を起こして、時計を見た。
しかし、時刻は朝五時。出勤するには早過ぎる。
ソクーロフは##NAME1##の肩に手を置いた。
「急患でね。今、シュヌーシア寮から連絡があったから診てくるよ。
今日は一緒に朝食を摂れないね。まだ早いから、君は寝ていなさい?」
ソクーロフは##NAME1##の顔に近付き、
「行ってくるよ」

彼の背がドアの向こうに消えた。

寝ていなさいと言われたが、せっかく目を覚ましたのだから起きたほうがいいだろうか。
けれど、なんだか身体が重い。もう少し眠ろう。##NAME1##は再び眠りについた。



その夜。
「おや?」
ソクーロフは##NAME1##を見るなり、眉間に皺を寄せた。
すっと手を伸ばし、##NAME1##の額や首に触れた。医師の手が体温を感じ取る。
「37度8分といったところか。すまない、朝まで傍に居たのに。
急患が出たからと言って、一番大切な人の初期症状を見逃すなんて」
##NAME1##の肩に手が置かれる。
「診察、させてくれるね?」



「今日、保健室行ったら、違う先生が居たんだ。博士、風邪なんだって」
「医者のくせに? 使えないね」
「アンリ。博士に噛み付くなよ」



ベッドにはソクーロフが横たわっている。
その傍で##NAME1##は行ったり来たりしながら、病人の世話をしていた。



「美味しいよ、オートミールのような料理なんだね。これなら消化も良さそうだ」

「ああ。本格的に風邪を引いたのは、随分と久し振りだ。
医者が自らの健康を管理するのは義務だからね。常日頃から、予防は万全の態勢を整えてる。
けれど、今日は風邪を引いて、医師失格だね。
これは病欠ではなく、ただのサボタージュだ」
そんなこと、と##NAME1##が言いかけたが、彼は首を横に振った。
「こうなることは、昨夜の段階で解っていたからね。
薬を飲んだとは言え、まだ完治していない君と、
濃密な接触をしたら、きっと風邪が移るだろうとね」
横たわる彼が手を伸ばしてくる。
「だけど、いや、だからこそ、私は君に触れたかった」
彼の手は##NAME1##の指先を捕まえた。熱のある手だ。
「昔、子供の頃に一度、私はインフルエンザになったことがあってね」
突然、彼はそう呟いた。
「高熱が出る種類が流行っていたんだ。
医師だった父は忙しい時期で、家に帰ってこない夜も頻繁にあって」
寂しかったでしょうね、と##NAME1##が言うと、彼は微笑んだ。
「いいや。父が居ない夜を寂しいと思った記憶はあまりないんだ。
子供心にも、既に慣れていたんだろうね。それよりも彼女が」
そこでソクーロフは一度深呼吸した。ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「父が居なくても、普段と何も変わらず、
平然と赤いマニキュアを塗っている母を見たことのほうが鮮明に覚えてる。
彼女は彼が居ても居なくても変わらない。
ずっと自分のことだけを気にしてる。そういう人だったから」
息が熱い。
普段も自分の話は殆どしないタイプの彼が、自らの過去を話している。
熱のある状態で喋るのは苦しいだろうに、今日の彼は語るのを止めなかった。
##NAME1##は彼の言葉を聞き続ける。
「私が熱を出した時も、父は傍に居なかったし、
風邪だからと言って、母に優しくして貰ったこともない」
ソクーロフは##NAME1##を見上げる。
「だから、今日は、嬉しいんだ。
君が当たり前のように、消化に良い料理を作ってくれたり、
付きっきりで世話をしてくれることが、本当に、嬉しいんだ」

「もしかしたら、急患が出ると、私が患者を必要以上に手厚く世話してしまうのは、
私が子供の時に思い描いた、理想の両親の姿を模倣したから、かもしれないね」

「ああ、まただね。君が傍に居ると、知らない自分に気付かされる。
私はかくも、脆く幼い人間だったと思い知らされるよ」

保健室には他の医師に来て貰っている。



マジプラス@ソクーロフ

2010.04.17 (Sat) Category : memo

##NAME1##はベッドの中で眠っていた。
誰かにそっと髪を撫でられて、##NAME1##は目を覚ました。
「すまない。起こしてしまったね」
目に映ったのは先日結婚した彼。
既に身支度が済み、『ソクーロフ博士』の姿になっている。
もうそんな時間かと思い、##NAME1##はガバッと身を起こして、時計を見た。
しかし、時刻は朝五時。出勤するには早過ぎる。
ソクーロフは##NAME1##の肩に手を置いた。
「急患でね。今、シュヌーシア寮から連絡があったから診てくるよ。
まだ早いから、君は寝ていなさい? 今日は一緒に朝食を摂れないかもしれないね」
ソクーロフは##NAME1##の顔に近付き、
「行ってくるよ」


その夜。
「おや?」
ソクーロフは##NAME1##を見るなり、眉間に皺を寄せた。
すっと手を伸ばし、##NAME1##の額や首に触れた。医師の手が体温を感じ取る。
「37度8分といったところか。すまない、朝まで傍に居たのに。
急患が出たからと言って、一番大切な人の初期症状を見逃すなんて」

「診察、させてくれるね?」

マジプラス@アイヴィー2

2010.04.17 (Sat) Category : memo

警備本部。
アイヴィーは理事会への定期報告書をパソコンで作成しているところだった。
「締まりのない顔ですね」
隣の席から冷たい言葉が飛んできた。
副司令官のラインハルト・クロイツである。
「どうせ奥様のお顔でも思い出していたんでしょう?
これだから嫌だったんですよ。業務に差し支えるようでは困ります」
「ダ、ダイジョブだって。そんなコワイ顔しないでよ、クロちゃん」
「あまり言いたくはありませんが、ご結婚されてから、貴方は変わりました。残念です」
「そう? どこが?」
「私が少し目を離すと職務怠慢気味だった貴方が、
定時で上がれるよう、雑務はテキパキと終わらせるようになりましたし」
「うん……え、良いことじゃない?」
「以前は退勤時刻になっても職場でダラダラしていたのに、
今では、そそくさとお帰りになるし」
「うん……てか、昔から、時間になったらさっさと帰れって言ってたのクロちゃんじゃ……」
「何より、変わったのは、目ですが」
「目?」
「ご自分では解らないでしょうね。私は、貴方が時折見せるあの目が」
「え?」
「いえ。報告書作成中、失礼しました。どうぞ続けて下さい」




「ソクちゃん、今夜……あ、いや、何でもない」
「私の顔を見ると、反射的に夕食に誘ってしまう、か」
「ゴメン。ついクセで」
「そう言えば、最近は行っていなかったな。お前が一人暮らしを止めてから」
白衣の内側から出てきたメスが、アイヴィーの頬に当てられる。
「彼女を泣かせるようなことはしていないか?」
「し、してないですから、メスは止めよ? アブナイから!」


仕事用の車でアイヴィーは自宅に向かう。
海の側にあるコテージが見えてきた時、窓に明かりが灯っているのも見えた。
一人暮らしの時には有り得なかった風景だ。
些細なことだが、ハンドルを握りながらニヤついてしまう。
クロイツに「締まりがない顔」だと注意されたことを思い出す。
ニヤニヤしながら帰宅するのもヘンかなと思い、
自分の頬に触れ、一度深呼吸してから、ドアを開けた。
すると、そこに##NAME1##が立っていた。車の音で帰ってきたことが解ったのだろう。
おかえりなさい、と言われ、アイヴィーは少し照れながら、
「た、ただいま」


二人で夕食を食べた後。アイヴィーは伝言を思い出した。
「あ、そだ。あのね? さっきソクちゃんに言われたんだ。
今度一緒に飲みに行かないかって、##NAME1##ちゃんと俺とソクちゃんの三人で。
##NAME1##ちゃん、どーする?」
「行く!」と##NAME1##が即答する。
「ちょ、ちょっと、##NAME1##ちゃん。そんな嬉しそうにしなくても……」

マジプラス@ソクーロフ

2010.04.16 (Fri) Category : memo

警備に呼ばれる

「すまない。起こしてしまったね」

「急患なんだ。今、シュヌーシア寮から連絡があったから診てくるよ。
君は寝ていなさい。今日は一緒に朝食を摂れないかもしれないね」

「行ってくるよ」


帰宅後。
「おや?」


マジプラス@アイヴィー2

2010.04.16 (Fri) Category : memo

警備本部。
アイヴィーは理事会への定期報告書をパソコンで作成しているところだった。
「締まりのない顔ですね」
隣の席から冷たい言葉が飛んできた。
副司令官のラインハルト・クロイツである。
「どうせ奥様のお顔でも思い出していたんでしょう?
これだから嫌だったんですよ。業務に差し支えるようでは困ります」
「ダ、ダイジョブだって。そんなコワイ顔しないでよ、クロちゃん」
「あまり言いたくはありませんが、ご結婚されてから、貴方は変わりました。残念です」
「そう? どこが?」
「私が少し目を離すと職務怠慢気味だった貴方が、
定時で上がれるよう、雑務はテキパキと終わらせるようになりましたし」
「うん……え、良いことじゃない?」
「以前は退勤時刻になっても職場でダラダラしていたのに、
今では、そそくさとお帰りになるし」
「うん……てか、昔から、時間になったらさっさと帰れって言ってたのクロちゃんじゃ……」
「何より、変わったのは、目ですが」
「目?」
「ご自分では解らないでしょうね。私は、貴方が時折見せるあの目が」
「え?」
「いえ。報告書作成中、失礼しました。どうぞ続けて下さい」




「ソクちゃん、今夜……あ、いや、何でもない」
「私の顔を見ると、反射的に夕食に誘ってしまう、か」
「ゴメン。ついクセで」
「そう言えば、最近は行っていなかったな。お前が一人暮らしを止めてから」
白衣の内側から出てきたメスが、アイヴィーの頬に当てられる。
「彼女を泣かせるようなことはしていないか?」
「し、してないですから、メスは止めよ? アブナイから!」


仕事用の車でアイヴィーは自宅に向かう。
海の側にあるコテージが見えてきた時、窓に明かりが灯っているのも見えた。
一人暮らしの時には有り得なかった風景だ。
些細なことだが、ハンドルを握りながらニヤついてしまう。
クロイツに「締まりがない顔」だと注意されたことを思い出す。
ニヤニヤしながら帰宅するのもヘンかなと思い、
自分の頬に触れ、一度深呼吸してから、ドアを開けた。

「た、ただいま」


「あ、あのね? さっきソクちゃんに言われたんだけど、
今度一緒に飲みに行かないかって、##NAME1##ちゃんと俺とソクちゃんの三人で。どーする?」

マジプラス@アイヴィー

2010.04.15 (Thu) Category : memo

■マジプラス ~マージナルプリンスafter story~
■アイヴィー×姉貴(新婚モード)


聖アルフォンソ島西南部。海に近い崖っぷちのコテージ。
そこに一台の黒いタクシーが止まる。後部座席の窓からアルフレッドが外を見た。
「車は……よしっ、二台しかないぞ! 敵は居ないな!」
シルヴァンはニコニコしながら敬礼する。
「キャプテン! 出撃するなら今かと!」
ハルヤは苦笑している。
(あーあ。また始まっちゃったよ、海賊ごっこ)
船長アルフレッドは車の中で右手を掲げる。
「乗り込むぞ、野郎ども! 敵に奪われた宝を奪い返すのだー!」
「おー!」
アルフレッドとシルヴァンは、ここまで乗せてくれたドライバーに、
「サンキュ」「ありがとうございましたー」とお礼を言って、タクシーを降りた。
海賊ごっこはまだ続いているようで右手の拳を挙げながらダッシュでコテージに向かっている。
おそらく彼等の右手には見えない剣が握られているのだろう。
「煩くてすみません。ありがとうございました」
ハルヤは、やや恥ずかしそうにドライバーにそう言って、二人を追い駆けた。


「##NAME1##、会いに来たぜ!」
「遊びに来ちゃいましたー! ##NAME1##~!」
「お邪魔しまーす」
アポなしでやってきたデッドプリンスの三人は##NAME1##を驚かせた。
「何か作ってくれなきゃ帰らない」と言われ、ホットケーキを作った。
あっという間に完食した三人は、##NAME1##を囲んで、
食後のインスタントコーヒーを飲んでいる。
アルフレッドは頬杖を突きながら、##NAME1##を眺めていた。
新妻となった彼女の横顔でさえ幸せそうだった。
アルフレッドは大きな溜め息を吐いた。
「ったく、##NAME1##は俺のジュリエットだったのに。
アイヴィーに取られるとは思わなかったぜ」
ハルヤはオリエンタルスマイルを見せる。
「寝耳に水だったよね」
日本人の彼女を見ていたからか、ハルヤの口から思わず母国語が出た。
「あんだって? ネミミミ……? 日本語か?」
「あ、ごめん、突然で驚いたって言ったんだ。
ほんとにビックリしたよ。急に『結婚しました』って言われたんだもん」
シルヴァンが手を挙げる。
「僕は、お二人の仲が進展してることに気付いてましたー」
「ああ!? マジかよ、シルヴァン! 気付いてたんなら俺達にも言えよ!」
「でも、既に時遅しってかんじで、アイヴィーも幸せそうでしたし。
僕達としても、アイヴィーなら許せるじゃないですか、ギリギリ」
「……まあ、ギリな、ギリ!」
「ところでさ、##NAME1##。今、なんか煮物みたいなの作ってる?
さっきから、いい匂いがするんだけど?」
##NAME1##が「はい」と言うと、今食べたばかりの三人が「味見する」とキッチンに向かった。
##NAME1##が鍋の蓋を開ける。ふわっと醤油の香りがした。
アルフレッドは首を傾げていた。
「ん? これ何て料理?」
ハルヤは料理を見つめながら、
「肉じゃがだよ。そうだよね? すごいなあ。美味しそう」
「これが、あの有名なニクジャガですか! 男をメロメロにする代表料理ですね!
僕、ジャパニメーションで見たことありますー!」
「……前から気になってたんだけど、シルヴァンって、どんなアニメ見てるの?」
味見味見、と三人の『味見し隊』にせがまれ、小皿に取ったものを渡した。
味はなかなか好評だったようで、「おかわり」を要求されたが、
このままだと、なくなってしまいそうなのでリビングに戻って貰った。

二杯目のコーヒーを飲みながら、四人のお喋りが続く。
「それでー、##NAME1##? いかがです? アイヴィーとの新婚生活は。
彼は仕事から帰ってくるのが遅い日もあるでしょう?」
##NAME1##が頷くと、シルヴァンは手を合わせた。
「淋しい夜はいつでも呼んで下さいね? 僕、飛んできますから♪」
ハルヤがコーヒーを吹きそうになる。ゴホゴホと咳き込みながら、
「ちょ、シルヴァン、な、何言ってんの?」
「だってー、今の##NAME1##、すごくお綺麗ですし。新妻萌えですー♪」
アルフレッドは##NAME1##の手を握っていた。
「##NAME1##! 呼ぶのは俺にしろ! なっ?」
「##NAME1##、僕ですよね♪」
「もう止めなよ、二人とも。ごめんね、##NAME1##」
その後も、##NAME1##とデッドプリンスのお喋りは続いた。
ピンポーンとドアチャイムが鳴った。
ディナータイム前に迎えに来るよう頼んでいたタクシーが来た。
三人は「また遊びに来る」と言い残し、寮へ帰っていった。

生徒代表アンリ

2010.03.14 (Sun) Category : memo

新しい生徒代表が決まった。
今日は生徒代表室にて、第一回目の警備ミーティング。
警備組織のトップとして、俺は新代表に挨拶した。
「改めましてー、警備組織司令官のアイヴィーです。
つーことで、これから一年間、よろしくな、アンリ」
琥珀の瞳は俺を少し見上げて、ぼそりと言った。
「よろしく」
ジョシュアから王座を引き継いだのは、同じ寮のアンリだった。
入学時は本当に小柄で天使のようだった少年が、
いつのまにか立派な最高学年になり、生徒代表に選ばれるまでに成長した。
生徒達の目にも、この人選は妥当と映ったようだ。
先日卒業したシルヴァンも「次はアンリでしょうね」と予言していた。
毎年そうだけど、俺も今年の選出に文句はない。ま、文句が言える立場じゃないけど。
今年の生徒代表がアンリなら、俺はどうしても、
最初に言っておかなくてはならないことがあった。
「いいか、アンリ? 今年は去年にみたいなオイタはなしだぞ、マジで。
もう生徒代表になったんだからな? 解った?」
「何のこと?」
この後に及んで、しらばっくれますか。こいつはホント将来大物になるわ。
昨年のアンリは、自分のボディガードだからと言って、
シチリアマフィアを手引きし、密かに島へ侵入させていたのだ。
それも、残虐なことで名高いマンゾーニ・ファミリーのNo.2、ディーノ・マンゾーニを。
アンリはディーノと共謀し、俺達警備の目を欺いてまで、島で密談していた。
まあ!? 警備の目が節穴だって言われたら、そこまでなんですけど!?
あー、もー、昨年度の生徒代表、ジョシュアの有り難みが今になって解るような気が。
あいつはオイタしないし、謙虚だし、超優等生だったな、ほんと。
だけど、去年を懐かしんでもしょうがない。負けるな、俺。
「よし。いいか? 何のことかって言うとだな?」
こいつにだって話せば解る筈だ。
「危険物の密輸入は禁止って話だよ。特にシチリア産のはアブナイから!」
新代表は、臆することなく、むしろ冷笑して見せた。
なんなの? なんでそんな余裕ブッこいてんの?
「そんな危険物と、君はメールフレンドなんだって?」
「な、何で知って!?」
「聞いたから」
ディーノの奴、何でもベラベラと喋りやがって!
「いいのかなあ。警備のトップが、あんなのと個人的に連絡を取り合っているだなんて。
これが理事会に知られたら、処罰の対象になったりして。最悪、この島に居られなくなるかも」
「お、お前さんは、俺をオドしてんのか? 俺達はこれから一年間仲良く協力してだな」
「うん。仲良くしよう、ね?」
こ、これは、つまりアレだよな?
理事会にバラされたくなかったら、ディーノの密輸入に関して口出しするなって言われてんだよな?
生徒代表と仕事するようになってから七年も経つが、生徒代表から、まさかのキョーカツ。
「生徒代表も面倒なばかりではないんだね。やり易い一年になりそうだな」
「やり辛い一年になりそうだわー」


fin

ラビが入学した日2

2009.12.22 (Tue) Category : memo

クラウス生徒代表時代:
レオン・ラビ中1、シルフェ中3、テオ高2、アンリ中3、ジョシュア・シルヴァン高1、レオシュ高1


通信室

シルフェ

「おや。見掛けない顔だね。クラウスが連れているということは、新入りかな?」

「ああ。シュヌーシアに入る」

「へえ。なかなか可愛い顔してんじゃん。でも、俺好みの美人になるには、あと五年、いや、六年かなあ」

「シルフェ」

「怒りっぽいなあ、クラウスは。よ、新入り君。俺はシルフェ、中三。お前は?」

「ラビット。中等部一年です」

「よろしくな」




「わあ、ここもおっきい」

クラウスはラビを連れてライブラリに来ていた。
確かにここは学校の図書室というには大き過ぎる。蔵書冊数は都会の図書館レベルだ。
しかし、この学院に最早慣れてしまった最高学年は、新入生の素直なリアクションを新鮮に感じた。
自分もここに来た時は同じように、バカでかい施設に驚いてた筈だが。良くも悪くも人間の適応能力は便利である。

「ここにない本は取り寄せることができる。ここまで運ぶのに一週間かかるがな」

ふうん、と生返事が返ってくる。ラビの視線を追うと、カフェのほうを見ていた。

「あそこは、ライブラリ併設のカフェだ。メニューでも見ていくか?」

「あの、えっと」

「言いたいことがあるなら、はっきり言え」

「あ、あの、ちょっとカフェで休んで行っちゃダメですか?」

「なに?」

「あ、ダメなら、いいの」

まだ学院案内の前半だというのに貧弱な体力だな、とクラウスは感じたが、
相手は自分より五つ学年が下であること、今日は長旅の後であることを思い出した。

「じゃあ、好きなものを頼んで来い」

「うんっ」

駆け足でカウンターに向かった。
走れるならもっと早く歩けよ。クラウスは溜め息を吐きたい気持ちだった。

「えっと、えっと……甘いジュースみたいなのありますか?」

「では、トロピカルジュースはいかがでしょう? 夏のフルーツで作ったものです」

「じゃあ、それにしよっかな。あの、それでお願いします」

スローな遣り取りを聞いた後、クラウスも飲み物を注文した。

「アイスコーヒー。ブラックで」


二人は窓際のテーブルに座り、それぞれのグラスに口付けていた。
クラウスはちらと腕時計を覗く。既にタイムスケジュールから大幅に遅れている。
この分では予定の半分も回れないのは確実だ。

幸いなことに新入生とは同じ寮なので、明日からも傍で面倒はみれる。
今日回れなかった分は、今後案内していくことにしよう。

それにしても、ジュースを飲むスピードも遅い。
クラウスは半ばやけ気味に、自分の茶色い液体を飲み下す。
ここのアイスコーヒーが文句なく美味いことだけが救いだった。

カフェで休んでいると他の生徒がやってきた。襟元で揃えた髪、華奢な背中。錬金術師の末裔だ。
もたもたしているせいで苦手な奴が来てしまった。ラビのグラスを見る。やっと飲み終えたようだ。
もう行くぞ、とラビに号令を掛け、ライブラリを後にした。


帰りに保健室の場所を教える。

博士に挨拶

「ラビ、挨拶」

「は、初めまして。ラビット・マルセロです」

「初めまして、会えて嬉しいよ、ラビット。私は保健教師のソクーロフだ。
丁度、君の資料を見ていたところなんだ。君は喘息持ちだそうだね?」

「あ、はい。すみません」

「どうして、謝るんだい?」

「だって、僕、きっと、いっぱい迷惑掛けちゃうから」

「病を持っていることを負い目に感じる必要はないよ。なろうと思ってなったのではないし。
シュヌーシア寮は、保健室に一番近い寮だから、例年、病を抱えている生徒の多くが入寮する。
皆、病もひとつの個性だと理解している子達ばかりだよ。
喘息持ちだからと言って、君を責める生徒は一人も居ない。そうだろう、クラウス?」

「はい。当たり前です」

そう即座に答えられた自分に、クラウスは少し驚いていた。
シュヌーシア寮に入っていなければ、そうは言えなかったかもしれない。

「ラビット。今日の体調はどうかな? ここまで来るのに時間がかかって疲れたんじゃないかな?」

「うん。ちょっと。でも、発作はなかったから」

「苦しくなったら、我慢せず、すぐ誰かに言うんだよ? 保健室には喘息の薬もちゃんとあるからね?
ここまで来た鞄の中にも、薬を入れて来たのかな?」

「うん。急に発作が起きるかもしれないから、持っていきなさいっておじさんに言われて」

「その薬、ひとつでいい。あとで私に見せてくれるかい? 同じのを作ってあげるから」

「ほんと? お願いします」

「ではクラウスに預けてくれるかい? クラウス、すまないが、あとで会う時に私に渡して貰えるかな?」

「解りました」


夕食の席で、ラビはシュヌーシア寮の全員に紹介された。




「おや、クラウス。もう終わったのかい? 食後のコーヒーは?」

「今日はいい。まだ仕事が残ってる」



「おい、お前達、ラビと話すのもいいが、今日は早めに休ませてやれ。
ラビ、俺は少し寮を空ける。何か解らないことがあれば、他の奴等に聞いてくれ。皆、教えてくれる」

「うん。でも、どこに行くの? お外、真っ暗だよ?」

「生徒代表室だ。ミーティングがあるんでな。そうだ、ラビ。お前の常備薬を預かろう。博士に渡しておく」




生徒代表室

「よっ。早く着いちゃったから、勝手にインスタントコーヒー頂いてたぜ?」

「アイヴィー。今日はネットミーティングでの出席じゃなかったのか?」

「ま、近くまで来てたからさ」

「では、ミーティングを始めましょう」



「本日は、無事にラビット・マルセロの学院案内を終えました。今のところ彼に疑わしい点は見受けられません。
夕食時にシュヌーシア寮生全員と顔合わせを行いましたが、寮内には敵対関係者は居ないようです」

「そうだね。私も少し会わせて貰ったが、問題は見受けられなかった」

「うん。俺もそう思う。ちっちゃい、かわいこちゃんだったな」




シュヌーシア寮サロンにクラウスが戻ってくる。



「ラビは?」

「部屋だよ。おねむのようだったから、先に休んで貰ったんだ。もう夢の中かな」

「そうか」

「夢と言えばさあ、うさぎちゃんも見るのかな?」

「保証人は叔父さんって言ってたっけ?」

クラウスは重要事項を思い出し、皆に声を掛けた。

「お前達に聞いて貰いたいことがある。新入りの持病についてだ」

寮生は静かになり、クラウスに注目した。

「ラビは喘息持ちだ。あいつの前で埃を立てて騒ぐようなことは止めてくれ。それから」

「具合が悪そうな時は保健室に、だろ? 言われなくても解ってるよ。
シュヌーシア歴なら俺のほうが長いんだから」

「なら、いいさ」

「そうだ! ラビの入学祝いパーティをしなくては! 明日の夜はどうかな?」

「明日ぁ? んな急で間に合うのかよ?」

「おや。私に開けないパーティがあると思うのかい?」

「おっ。さっすがテオ! 言うことが違うねえ」


ラビが入学した日2

2009.12.15 (Tue) Category : memo

図書室のカフェ

「僕、疲れちゃった」

貧弱な体力だな、とクラウスは感じたが、相手は自分より五つ学年が下であること、今日は長旅の後であることを思い出した。

「じゃあ、好きなものを頼んで来い」

「うん」

駆け足でカウンターに向かった。
走れるならもっと早く歩けよ。クラウスは溜め息を吐きたい気持ちだった。

「えっと、えっと……甘いジュースみたいなのありますか?」

「では、トロピカルジュースはいかがでしょう? 夏のフルーツで作ったものです」

「じゃあ、それにしよっかな」

スローな遣り取りを聞いた後、クラウスも飲み物を注文した。

「アイスコーヒー。ブラックで」


予定通りに回れない。

同じ寮なので、これからも面倒はみれる。

カフェで休んでいると、他の生徒がやってきた。

「新入生?」





帰りに保健室の場所を教える。

博士に挨拶

「ラビ、挨拶」

「は、初めまして。ラビット・マルセロです」

「初めまして、会えて嬉しいよ、ラビット。私は保健教師のソクーロフだ。
丁度、君の資料を見ていたところなんだ。喘息持ちだそうだね?」

「あ、はい」

「苦しくなったら、我慢せず、すぐ誰かに言うんだよ? ここには喘息の薬もちゃんとあるからね?」

「良かった」


夕食の席で、ラビはシュヌーシア寮の全員に紹介された。




「おや、クラウス。もう終わったのかい? 食後のコーヒーは?」

「今日はいい。まだ仕事が残ってる」


「おい、お前達、ラビと話すのもいいが、今日は早めに休ませてやれ。長時間の移動で疲れている筈だ。
ラビ、俺は少し寮を空ける。解らないことがあれば、他の奴等に聞いてくれ」

「どこに行くの? お外、真っ暗だよ?」

「生徒代表室だ。ミーティングがあるんでな」




生徒代表室

「よっ。早く着いちゃったから、コーヒー頂いてたぜ?」


「本日は、無事に、ラビット・マルセロの学院案内を終えました。ラビットに問題はありません」

「そうだね。私も少し会わせて貰ったが、問題は見受けられなかった」

「うん。俺もそう思う。かわいこちゃんだったな」



シュヌーシア寮サロンにクラウスが戻ってくる。



「ラビは?」

「部屋だよ。おねむのようだったから、先に休んで貰ったんだ。もう夢の中かな」

「そうか」

「夢と言えばさあ、うさぎちゃんも見るのかな?」

「保証人は叔父さんって言ってたっけ?」

クラウスは重要事項を思い出し、皆に声を掛けた。

「お前達に聞いて貰いたいことがある。新入りの持病についてだ」

寮生は静かになり、クラウスに注目した。

「ラビは喘息持ちだ。あいつの前で埃を立てて騒ぐようなことは止めてくれ。それから」

「具合が悪そうな時は保健室に、だろ? 言われなくても解ってるよ。
シュヌーシア歴なら俺のほうが長いんだから」

「なら、いいさ」




ラビが入学した日

2009.12.11 (Fri) Category : memo

学生課の隣にある待合室。そこに一人の少年が心細そうに座っている。
本日、聖アルフォンソ学院に入学する新入生だ。
肌は雪のように白く、髪はサラサラとした栗色。
背が低く、幼い顔立ちの為、一見少女のようにも見える。
高い天井を見上げたり、キョロキョロしたり、初めての場所に落ち着かない様子だった。

「新入生のラビット・マルセロだな」

「は、はいっ」

突然名前を呼ばれて、あからさまに肩が跳ねた。
少年の背後に、背の高い青年が立っていた。緑色の燕尾服を全く着崩さずに身に付けている。
にこりともしないので、なんだか怖そうな人だなという第一印象を与えてしまう。
真面目な表情のまま、彼はこう名乗った。

「俺は高等部三年のクラウス・フォン・モールだ。
生徒代表として、今日一日、学院案内を務める。よろしく」

はきはきと話す最高学年に対し、新入生は消え入りそうな声だった。

「よ、よろしく、お願いします、えっと、クラウスさん。
あ、じゃなくて、モールさん? それともフォン・モールさんなのかな……」

語尾は殆ど聞こえないくらいだった。
軍人の家系出身のクラウスは「もっとでかい声は出せないのか」と叱り飛ばしたい気持ちを抑え、
学院案内の上で重要な伝達事項のひとつ目を伝えた。

「この学院は、学年に関係なく、生徒達は全員ファーストネームで呼び合う習慣がある。
だから、俺のこともクラウスと呼んでいい。俺も君のことをラビットと呼ばせて貰う」

「そうなんだ……あ、じゃあ、あの、僕、ラビって呼んで欲しいんだけど、ダメですか?
パパにもママにもそう呼ばれてたから」

「解った、ラビ」

「ありがとう、クラウス」

ラビット・マルセロ。13歳、中等部一年。出身国はイタリア。
父親はマルセロ家ボス。つまり、シチリアマフィアである。
しかし、その父親、そして母親も既に他界。死因は焼死。
無差別放火事件に巻き込まれたと資料にはあった。
聖アルフォンソ学院は訳ありの子息達が送られてくる場所。
クラウスは生徒代表の任務上、全生徒の詳細なプロフィールを把握しているが、この少年もまた相当の身の上だ。

病歴の欄には、幼い頃から喘息持ちであることが記されていた。
シュヌーシア寮は三つある寮の中で最も保健室に近い。
その為、持病やハンディのある生徒は、シュヌーシアへ入寮することが多かった。

今年度の生徒代表クラウスもシュヌーシア寮だが、
彼自身はトライアスロンを趣味とする程、屈強な心身の持ち主である。
体育会系で歩幅も広いクラウスからすると、少年は歩くのが遅かった。

新入りは革鞄を両手で引きずるように持っている。それで余計に遅いのだ。
耐え兼ねて、クラウスは右手を差し出した。

「持ってやる」

「えっ?」

「重いんだろう、その鞄。貸せ」

「あ、ありがとう」

持ってみると、やはり大して重くはなかった。持ち手を握って、軽々と肩に乗せる。

「では、最初に寮に向かう。お前はシュヌーシア寮。俺も同じ寮だ」

生徒代表はちらりと腕時計を見た。事前に組んだタイムスケジュール通りの出発時刻だ。


「ここがお前の部屋だ」

シュヌーシア寮一階の部屋が割り当てられた。体力のなさを考慮されて一階になったのだろう。
クラウスに言わせれば、だからこそ二階にするべきではと思うのだが、
病弱な生徒が二階の部屋になることは殆どなかった。ラビは部屋の中を見回している。

クラウスは「ここに置くぞ」と言って、革鞄をベッドの脇に下ろす。
机の上に既に置かれている教科書をチェックしながら、部屋の内装は変更が可能であることを説明した。

「次はサロンに案内する」

返事がない。何をしているのか。少年は窓の向こうを見ていた。

「おい、ラビ」

名前を呼ぶと、やっと振り向いた。その顔を見て、クラウスは自分の目を疑った。
少年の瞳が少し潤んでいたのである。クラウスは気付かなかったフリをして、ドアに向かう。

「次の場所に行く。付いて来い」

「はいっ」

小さな足音を聞きながら、廊下を歩いていく。慰めるような言葉を掛けなかった自分を省みた。
クラウスは入学時16歳だった。13歳でこの孤島に送られることは心細いのかもしれない。
しかし、だからと言って、慰めの言葉が必要だろうか。
第一、どんな言葉が適切なのか、クラウスには解らなかった。無言のまま、目的の部屋に到着していた。

「ここがサロンだ」

扉を開けると、中に人が居た。緩やかな波のある金髪。
丁度、紅茶を飲んでいた彼は、クラウスとラビを見て、目を大きくした。

「おや、クラウス。街でテディベアを買ってきたのかい?」

「はあ?」

金髪の生徒は、少年の前に来て、膝を着く。
間近で顔をみて、ああ、と気付いたように言った。

「失礼、新入生君だね。抱きしめてしまいたい程、可愛らしいから、
くまさんのぬいぐるみかと思ってしまったよ」

優雅に笑う生徒に、クラウスは頭を抱えた。

「テオ。こいつは今日入ったばかりなんだぞ。少し加減できないのか、その口は」

「すまない、私の唇は生まれつき正直なものだから」

「ったく」

クラウスはラビに詫びる。

「悪かったな。今のは気にしないでくれ。サロンは後回しにして、次に行こう」

「ちょ、ちょっとクラウス! 私は可愛い新入生にいち早く会いたくて、
ここで待っていたのだよ? 自己紹介くらいは、させてくれないかな?」

クラウスは腕時計を確認する。

「30秒だ」

「ありがとう!」

にこりと微笑んで、新入生に挨拶した。

「ようこそ、シュヌーシア寮へ。私はテオ・メネシス。高等部二年だよ。
君のように可愛らしい子が、我がシュヌーシアに入ってくれて嬉しいな。
今日は本当に入学おめでとう、えっと、お名前を伺ってもいいかな?」

「ラビット。ラビって呼んで欲しいの」

「おやおや。こんなにラブリーな名前は聞いたことがない。
失礼、くまさんではなく、うさぎさんだったのだね。ラビ、か。ああ、なんて愛らしい。
あ、そうだ。どうだい? ここで一緒に紅茶でも」

「30秒。そこまでだ」

「おや。まだ10秒くらいかと思ったよ」

「お前と居ると、寮を案内しただけで日が暮れる。これから同じ寮で暮らすんだから、紅茶は明日以降にしてくれ」

「では学院案内に、付いていっていいかい? 私も一緒に学院を見てまわりたいな」

「駄目だ。学院案内は生徒代表の仕事なんだからな。ラビ、来い」

「あ、はい」

そう返事をしながらもラビはテオを見た。
すると、テオは微笑んで、

「名残惜しいけれど、暫しのお別れだね、ラビ。
では今日は一日、クラウスとのランデブーを楽しんでおいで?」

「らんでぶー?」

「テオの言うことは気にするな。行くぞ」

手を振るテオに見送られながら、クラウスとラビは次の場所へと向かった。

スローペースで歩きながら、クラウスは思う。
テオの言葉は相変わらず大袈裟過ぎる。
だが、「君の入学を歓迎している」という意味は、ラビにも伝わっただろう。

新入りを歓迎する言葉など、自分は一言も発さなかったが、
テオは出会った瞬間に、浴びせる程、与えたのだ。
クラウスには思い付きもしない、優しくあたたかい言葉を。

テオの過剰表現を真似ることはできないが、「入学おめでとう」くらいなら自分にも言えるだろう。
次回への反省点として覚えておこう、とクラウスは思った。


本編7

2009.11.28 (Sat) Category : memo

「なあ、なんか楽しいことしようぜ! 前は楽しいこといっぱい考えてくれたじゃん!」


ああ、そうだった。
貴方から貰った言葉なのに、私が守っていなかったなんて。



「おや。アイヴィー?」

「よっ、テオ」

「私を迎えに来てくれたの? もしや、会議はどこか別の場所で行われるのかい?」

「いいや。ここだよ」

「ええっと?」


「ご挨拶が遅れました、私は警備組織司令官のアイヴィーです。
この度は、生徒代表ご就任、おめでとうございます」

「えっ? アイヴィーが、司令官……」

「警備組織は生徒代表の剣と楯。貴方のご一存で動かすことが可能です。
我々は、生徒代表への忠誠を誓います、テオ・メネシス様」

「か、カッコイイ! カッコイイよ! アイヴィー!
まさか貴方が司令官だったなんて!
私、貴方のこと、陽気なタクシードライバーさんだと思ってたよ!」

「いや、それも間違いじゃねーから」

「昼はタクシードライバー、しかしてその実体は、島の平和を守る司令官だったのだね!」






「はーい。チキン&チップス、お待たせー」

顔馴染みの店員から、アイヴィーが皿を受け取る。
ソクーロフが他の皿を避け、テーブルを開ける。そこにアイヴィーが皿を置いた。
今、到着したのは、鳥の唐揚げとフライドボテトの盛り合わせだ。
アイヴィーは早速、唐揚げを口に入れる。揚げたてでウマイ。煙草をくわえているソクーロフは手を付けなかった。

ここは島の旧市街にあるアイリッシュパブ。
アイヴィーとソクーロフは遅い夕食をとりながら、くだらない話や仕事の話をしていた。

他にテーブルの上に乗っているのは、5種類の焼きソーセージ、
ギネスビールで柔らかく煮込んだ牛肉、野菜スティック、細長いガーリックトーストなどだ。
いつも、頼んだ料理の三分の二を平らげるのはアイヴィーで、ソクーロフは残りをつまむ程度だった。

ポテトも二つ食べ終わり、店員の姿が見えなくなったところで、アイヴィーは話を再開した。

「じゃあ、今は元気になったったみたいで良かったよ。
テオが倒れたから今日のミーティングは中止、って聞いた時は驚いたけど」

ソクーロフは唇から煙草を離し、灰皿に置いた。

「驚いたか?」

「そりゃ驚くでしょ? いつも元気いっぱい太陽スマイルのテオだぜ?
あいつはソクちゃんに世話になったこと殆どないでしょ?」

「ああ。だが、今回のことは、事前に予測できたことだ」

「え? テオが倒れるって解ってたってこと?」

「あの子の心身に何らかの影響が出るとは思っていた。しかし、正直、今回のことは私の予想以上だった。
これほど即座に、かつ顕著な症状が、表に現れるとは」

アイヴィーはカウンセラーの表情を伺う。目が合った。が、ソクーロフは視線を外した。珍しい。

「なに? どーしたのさ、ソクちゃん。ヘンな顔して」

「いや」

グラスを傾ける。思い出したように、ソクーロフは料理に手を付けた。
アイヴィーも鳥の唐揚げをフォークに刺す。オレンジ色のソースを付けて、口に入れた。衣がサクサクと音を立てた。

「酒の肴に、ひとつ、話をしてやろうか?」

そう言って、ソクーロフは話し出した。


アフリカのある村では『若者は野生の鶏肉を食べてはいけない』と決まりがあった。
その村に住む若者が、ある日、他国で知人の家に泊まった。
朝食に肉料理が出たので『これは野生の鶏肉か?」と尋ねた。
「違う肉だ」と知人が答えたので、若者は安心してたくさん食べた。

それから何年も過ぎた後、二人は再会した。
その時には既に、アフリカの男は、若者ではく、大人と呼べる年齢になっていた。
村の決まりは『若者は野生の鶏肉を食べてはいけない』だった為、知人はこう誘った。

「君はもう大人だから、大丈夫だね。食べていくかい?」

しかし、アフリカの男はこう言った。

「あれから、村に魔術師が現れて、大人も鶏肉を食べてはいけないことになった」と。

知人は途端に笑い出した。

「可笑しな村だ。肉くらい、何を食べても平気だよ。
いつか、君に食べさせた肉も、本当は野生の鶏肉だったのだから」

途端に、アフリカの男は全身が震え出した。
それから二十四時間と経たずに、彼の心臓は止まった。


そんな話を聞かされたアイヴィーは目を覆っていた。

「お医者さん、お医者さん。酒の肴にしては話がコワ過ぎるよ。
つーか、まだ鳥の唐揚げが残ってるのに、そんなコワイ話しちゃう?」

「ちなみに、この話はフィクションではなく、1682年、アフリカのコンゴで起こった実話だ」

「出たー。ある意味、本当にあったコワイ話ー」

「この場合、死因は何になると思う?」

「し、死因?」

「原因不明の突然死だろうか、不慮の事故死だろうか。
肉を食べさせた人間に罪があると考え、殺人事件に仕立てることもできるかもしれない。
医師なら急性心不全と書くだろう。だが、それも要は『急に心臓の動きがおかしくなった』という意味で、
厳密な死因は医師にも解らない時に使われる便利な言葉だ」

「え、そうなの!?」

「ああ。他にもこんな事例がある」

ソクーロフは感情を表に出さず、続ける。

「妹が車に轢かれる瞬間を見て、心臓が止まった十一歳の姉。
軍隊から離れる希望を却下され、その日のうちに死んでしまった兵隊。
手術台に乗っただけで麻酔を掛ける前に亡くなる患者。
無害なヘビであっても、ヘビに噛まれた恐怖で死んだ男。
サンタクロースを目撃したショックで死亡した四歳の女の子も居る」

「そんなことで!?」

「そうだ。そんなことで、と思われる状況で、彼等は亡くなった」

「でもさ、それって、元々、心臓が弱かった人とかなんじゃないの?」

「いいや。いずれのケースも、それまでは、死を招くような身体的問題はなかった人間だ。
精神的ショック。それが直接、人を死に至らしめたとしか考えられない」

「そんなことって」

「世界中にある事実だ。実際にあった症例をあと幾つ話せば信じる?」

「も、もういいよ。夜に一人でトイレ行けなくなっちゃうだろ!」

「興味があれば、後日にでも、良い参考文献を教えてやる。
物理学者であり心理学者でもある精神治療医が書いた、500以上の心因性死をまとめた本だ」

「ごひゃっ……いや、あんた、お医者さんだからって、そんな本まで読んでるのかよ……」

「真っ当な業務資料だろう」

「いやー、うーん」

「つまり、心が受けた傷だけで、心臓が止まる場合が実際にあるということだ」

医師は灰皿の上でトンと灰を落とす。

「悲しみは、人をも殺す」

黒い皿に横たわった灰。
アイヴィーには、それが煙草の死骸のように見えた。ソクーロフはぽつりと言う。

「だから、驚くほどではないんだ。テオが突然、高熱を出したことは」

「えっ?」

「熱だけで済んで良かった、今回はな。お前もこの一年間は、特に注意して欲しい。
あの子と接していて、異常に気が付いたら、すぐに私に報告しろ」


後日、生徒代表室。
アイヴィーはミーティングを行う為、ここに来ていた。

「テオ。理事会からのメール見たか? 入学希望者が居るってヤツ」

「ああ、見たよ見たよ! アルフレッド・ヴィスコンティがこの学院に来るなんて!」

「あ、やっぱ知ってんだ? あの子役」

「知ってるなんてもんじゃないよ! 彼はあの名作『キャプテン・ライアンと最後の海賊たち』で、
イーグルアイのジェイミーを演じた、あのアルフレッド・ヴィスコンティだよ!?
あの映画は実に素晴らしかった。私は少なくとも五回は見ているよ」

「あー、お前さん、海とか大好きだもんなー。自分でお船も持ってるし」

「アルフレッド・ヴィスコンティの学院案内も、私が務めて良いのだよね!?」

「そりゃ、お前さんが生徒代表だからな」

「ああ、神様! 幸運を授けて下さって、ありがとうございます!」

「大袈裟だねー」

「早速、アルフレッドの為に、色々準備しなくては!
あ、そうだ! ねえ、アイヴィー、学院案内の時に、私の船を使っても良いかい?」

「ああ、まあ。ダメって話は聞いたことないからイイんじゃね?」

「良かった! では私、アルフレッドを連れて、クルーズしてくるよ!
聖アルフォンソ島の素晴らしさを語る上で、海は欠かせないものね!
ああ、あのイーグルアイ・ジェイミーと二人きりで航海ができるなんて、夢のようだ!
生徒代表の学院案内とは、なんて素晴らしい特権なのだろう!」

両手を掲げて喜んでいる。
テオの笑顔は、見ているほうも自然と同じような顔にさせた。

「楽しそうだな、テオ」

「もちろん!」

テオらしいキラキラとした顔。

「私から『楽しむこと』を取ったら、他に何が残るんだい?」

テオは少し上を向く。視線の先には肖像画があった。

「一年間、生徒代表を務めれば、私の絵も描いて貰えるよね?」

「ん? ああ」

「最後まで務めるよ。私も飾って貰えるように」

一年、任務を全うすれば肖像画をクラウスの隣に置いて貰える。

貴方と共に居られるんだ。
此処で、永遠に。


fin

本編6

2009.11.28 (Sat) Category : memo

「ソクローフ先生」

放課後の保健室。
ソクーロフがカルテを書いていると、シュヌーシアの生徒達、ほぼ全員が、
ぞろぞろと連れ立ってやってきた。保健室の先生は優しい声で応対する。

「おや。お揃いだね」

「あの、先生、テオは大丈夫ですか?」

「皆、テオのことが心配で来てくれたのかい?」

生徒達は一様に頷いた。

「テオ、熱はどのくらいあったんですか?」

「先程、計ったら、38度2分だったよ」

「そんなに……風邪なんですか?」

「風邪、というよりは、疲れが溜まったまま回復することなく悪化したといった状態だね。
大丈夫。身体的には悪いところはなかったよ。ただ」

「ただ?」

「身体に支障はない程度だが、血糖値が低かったのが気になったね。
最近、テオはきちんと食事を取っていたのかな?」

同じ寮で寝食を共にしている生徒達は、昨日の食卓風景を思い出す。

「晩ご飯食べに来てなかったんじゃない? 昨日は」

「あ、そうだよね。でも、昨日は、一人にしておいてあげようってことになって」

「昨日は朝ご飯の時もすぐ居なくなっちゃったよね」

「そう言えば、テオって最近ご飯残したりしてなかった? いつだったかな、
テオってターキーとか好きなのに、他の人にあげたりしてさ。結構前から具合悪かったのかも」

「そーかー? いつもと同じくらいじゃねえの?
前はいっぱい食べてたけど、最近はずっとあんなかんじだったろ」

生徒達のお喋りを医師は軽くメモを取って聞いていた。
赤いボールペンを白衣の胸ポケットにしまう。

「ありがとう、貴重な証言を聞かせてくれて」

「僕達、テオのお見舞いがしたくて来たんですけど、会っちゃダメですか?
ダメなら、これ、テオに渡しておいて貰いたいんですけど」

「会って構わないよ、感染性ではなかったし」

ソクーロフは生徒達の顔を見る。

「どんな抗生物質より、薬になるかもしれないね、君達が」

医師は席を立つ。

「テオのベッドへ案内するよ。付いておいで」


保健室二階、ベッドルーム。
一番窓側のベッドに金髪の生徒が横たわっていた。窓の向こうを見ている。
中等部の生徒がそっと声を掛けた。

「テオ、起きてる?」

金髪の生徒はすぐに振り向いた。

「みんな……」

「あのね。これ、お見舞い。さっきね、みんなで選んできたんだ」

テオに大きな花束が押し付けられる。

「まず、お花ー!」

生徒達は次々にプレゼントを渡していく。

「これは俺の好きなマンガ。絶対笑えるぜ!」

「あと、絵本もあるよ。テオ、童話とか昔話好きでしょ?」

「それから、太陽とか星の写真集みたいなヤツもあったから買ってきたぜ!」

「俺からは、ジャーン! ボトルシップー! カッコイイだろー!?」

ドサドサと尋常じゃない数のプレゼントがベッドに置かれていく。
テオは目をぱちくりさせた。

「こんなに、たくさん……」

「これでも本当は全然足りないくらいだよ。
テオ、誰かが保健室に居る時、いつもお見舞いに来てくれたから」

「だよな。僕も、この三倍は貰ってるかも」

「でも、テオは今まで殆ど保健室に運ばれてないから、俺達はお返しができなかったじゃん?」

「だから今日は、ドーンとウルトラスペシャルデラックス・バージョン!
とにかくテオが好きそうなもの、いっぱい選んできたってわけ! 受け取ってくれるよな?」

テオは寮生達の顔を見て、礼を述べた。

「ありがとう、みんな」

「テオ、テオー。『早く元気になって、また君の可愛いらしい笑顔を見せておくれ?』
……なーんちゃって。テオのマネー!」

周りの生徒達が笑った。

「はははっ。似てるー!」

「テオ、それ、よく言うよね!」

「あ、そうだ。あのね。テオの生徒代表就任パーティのことなんだけど。
テオには元気になるまで休んでて欲しいから、企画とか準備とか、僕達が考えておいても良いかな?」

「任せてしまっていいのかい?」

「もちろん、就任挨拶はテオにやって貰うぜ! あとのことはドーンと俺達に任せとけ!」

「テオが元気になったら、パーティやっても良いですよね、ソクーロフ先生?」

ベッドルームのドアに凭れて、全員の一挙一動を観察していた医師が、にこやかに頷く。

「ああ。構わないとも」

「じゃあ決まりだな、テオ、カッコイイ挨拶、考えておけよ?」

「それは元気になってからでいいよ。今はゆっくり休んで。早く元気になってね、テオ」

「うん。早くみんなのところに帰りたいな。博士、私はいつ寮に戻れますか?」

「そうだね、君がそう望むのなら、回復は早いと思うよ。調子が良ければ、明日でもね」

生徒達は「やったあ!」と声を上げた。


シュヌーシアの生徒が帰った後。
ウーティスの生徒、そして、アルファルドの生徒までが、テオのお見舞いに訪れた。

「テオ、タオレタンダッテ!? テオ、タイヨウとウミをアイするオトコ!
オレのナマエは、ジャワハルワール!」

お喋りなオウムを肩に乗せている生徒は、見舞いに果物をひとつ持ってきた。
今日のオウムは、随分悲痛そうに鳴いている。

「オレンジ、オミマイ! オレ、オレンジ、スキ! ダイスキ! テオにアゲル!」

オウムの小さな黒目は果物に釘付けだ。必死の「待て」である。
ジャワハルワールからテオに果物が手渡される。オウムは絶叫した。

「ギャー! オレのオヤツー!」

テオはジャワハルワールを見上げながら、

「ほ、本当に私が貰っても良いのかい? オレンジはオウム君の大好物だろう?」

「テオにアゲル! オレンジ、ビタミンCダカラー!」

泣き叫ぶように絶叫するオウムの頭を、飼い主は優しく撫でた。
ジャワハルワールは博士に軽く一礼して、無言のまま退室した。

ベッドの上で、テオは手の中に視線を落としていた。
果物を顔を近付けると、爽やかな柑橘の香りがした。

「オウム君……ありがとう」

医師は手を差し出す。

「テオ。それは保健室の冷蔵庫で預かろう」

「あ、はい」

「元気になったら、市場へ行って、あのオウムにお返しするオレンジを選んではどうだい? テオ」

「そうですね、そうします」

本編5

2009.11.28 (Sat) Category : memo

翌朝。聖アルフォンソ学院の朝食はどの寮もブッフェ式だ。
壁際には、寮の専属シェフが用意した、様々なメニューが並んでいる。
生徒達は自分の体調に合わせ、好きな料理を取り、テーブルに着く。
焼きたてのパン、薫り高いコーヒーのいい匂いがする。
朝食の時間は、制服の着用は義務付けられていない。シュヌーシアではパジャマ姿の生徒が目立った。朝食を食べながら生徒達が話している。

「テオ来ないねー」

「まだ寝てんじゃねー?」

「生徒代表就任パーティの打ち合わせとかしたいのになー」

テオがまだダイニングルームに顔を出さない。
そろそろ来ないと、朝食抜きで授業の時間になってしまう。丁度、食べ終わったラビが席を立つ。

「じゃあ僕、起こしてくるよ。この前テオに起こして貰ったし」

レオンは目だけでラビを見送り、トーストをかじった。
上級生達の話し声がレオンの耳に入ってくる。
テーブルの角で、食後のコーヒーを飲みながら、ぼそぼそと囁き合っていた。

「生徒代表二日目で寝坊かよ。大丈夫なのかね、テオで」

「何言ってんだよ。テオが一番、合ってるだろ?」

「そりゃ解ってるけどさ」

「あ、お前、実は自分が選ばれるって思ってた?」

「まさか」

「じゃあ、何が不満なわけ?」

「不満だなんて一言も言ってないだろ。テオには荷が重いんじゃないかって話」

「どこが? テオなら楽しい楽しいって言って、何でもできそうじゃん?」

「おとといまでのテオならな」

「おととい?」

「昨日のテオを見なかったのか、お前は。あいつ、一日中、ぼうっとした顔しやがって。ったく、見てらんねえぜ。
あんなんで一年間も務まるのかよ、生徒代表が。代われるもんなら、代わってやりてえよ」

ドアが開く。ダイニングルームにラビが飛び込んできた。

「どうしよう、テオが居ない! テオの部屋、誰も居なかった!」

「トイレかシャワーだろ?」

「ううん。いちお呼んでみたけど、居なかった」

皆がざわつく。

「じゃあ、どこ行ったんだ、テオ」

「まさか脱走?」

「バカ。テオがするかよ」

「つーか、脱走なんてできねえだろ、この学院で。警備が見張ってんのに」

「ウーティスの新入りはしてたじゃん、初日から」

「あれとテオを一緒にすんな」

「じゃあ、その辺を散歩してるのかな? ジョギングとか」

「テオはジョギングなんてしないって。クラウスじゃあるまいし」

レオンは昨夜見た光景を思い出す。夜中、テオは一人で、ドアの前に立っていた。あの部屋は、テオの部屋じゃない。

「まさか、あいつ、まだあそこに」

「どうしたの、レオン?」

「俺、テオの居場所、知ってるかもしんねえ!」

そう言ってダイニングルームを飛び出して行く。皆はレオンの後を追い駆けた。

レオンは廊下を走った。頭の中に口煩い先輩の声が聞こえてくる。
――緊急時以外、廊下は走るな――
レオンは立ち止まらない。今はマジで緊急事態なんだっつの。

「テオ! 居るのか!?」

ドアを開け放つ。テオはそこに居た。
べッドを枕にするように、床に膝を突いて。ベッドに凭れて眠っているようだった。

「お前……マジであれからずっと、ここに居たのかよ?」

レオンを追い掛けてきた生徒達が、続々と部屋に到着する。

「テオ、こんなとこに居たー」

「寝ぼけて、部屋間違えちゃったのかなあ?」

生徒がテオの肩を揺する。

「テーオ、朝だよ。てゆうか、ここテオの部屋じゃないよ。テオ、起きてってば」

「おい、なんか、様子が可笑しくないか?」

「テオ、苦しそうじゃない?」

「もしかして、熱が」

レオンはテオの額に触る。寮生達に振り向いて、叫んだ。

「おい! 誰か博士に連絡!」

「わ、解った!」


テオが目覚めた時、最初に見たのは、真っ白な天井だった。
ここは自分の部屋ではない。周りを見渡す。

「保健室……どうして?」

「目が覚めたんだね」

真後ろから声がした。優しい顔をした白衣の男。保健教師のソクーロフ博士だ。

「おはよう、テオ」

「博士……おはようございます、あの、私はどうして、保健室に?」

「覚えていないか。君は今朝、シュヌーシアの空き部屋で倒れていたところを発見されたんだよ」

「空き部屋?」

「以前は、クラウスが使っていた部屋だそうだね」

えっ、とテオは小さく呟いた。

「彼の部屋に入ったことは覚えているのかな?」

テオは目を伏せる。

「……いいえ。自分の部屋に帰ったつもりでした」

「そうか。高熱で意識が朦朧としていたのかもしれないね」

「熱?」

「ああ、発見当時38度7分だったんだよ、君は。今はどうかな。もう一度、検温してみよう」

はい、と答える前に、耳許でピッと電子音が聞こえた。
耳式体温計だったようだ。ものの1秒で検温が終わる。
博士は表示された数値を確認後、テオにも見せた。38度2分。

「まだ高いね。今日は授業に出なくていいから、ここで静養していなさい」

博士は体温計を片付けながら、

「今日は第一回目の警備ミーティングもあったね。メンバーは三人だけだし、中止にしよう」

「えっ?」

「警備担当者には私から連絡しておくから」

「それは駄目です! ミーティングなら出れます!」

「無理だよ。体温計を見せただろう?」

「生徒代表の仕事は、休みたくありません。少しくらい熱が高くたって」

「例え、学院の総帥でも、保健室に居る間は私の患者だ。
患者には私の言うことを聞いて貰うよ」

医師の手が上がる。その手はテオの髪を撫でた。

「衰弱した身体では生徒代表の任務も務まらない。テオ、今の君には安静が必要だ」

本編4

2009.11.28 (Sat) Category : memo

翌日。テオは目を覚ました。
部屋に光が差し込んでいる。太陽が昇っているのだ、いつもと同じように。
明けない夜はない、必ず朝は来る。いつの時代も希望の象徴として謳われる朝。
この学院から生徒が一人居なくなっても、朝は来る。
大好きな朝陽が、こんなにも無情に感じられた日はない。

昨日、生徒代表室で行った任命式が思い浮かぶ。一夜明けても信じられない。
あれが全て夢だったらいいのに。そうだ。悪い夢だったのではないのか。
一縷の望みを秘めて、ダイニングルームに向かった。

「あ、テオやっと起きたー」

「おはよー、テオ」

ダイニングルームの椅子は、昨日より一脚減っていた。


今日のテオは、いつも以上に声を掛けられた。
寮から校舎へ向かう途中も、教室から教室へ移動する時も。

「おはよう、生徒代表!」

「生徒代表就任おめでとう!」

「期待してるぜ、生徒代表!」

テオは「ああ、ありがとう」と応じる。

友人が多いテオは、生徒と擦れ違う度に祝福、激励の言葉が掛けられた。
肩乗りオウムにも声を掛けられた。

「テオー! セイトダイヒョウ!」

「オウム君も祝ってくれるのかい? ありがとう」

「セイトダイヒョウ、クラウス!」

「オウム君……」

「テオ、クラウス、イツモイッショ! クラウス、イナイ! クラウス、ドコ?」

ジャワハルワールはオウムの頬に触れる。テオは呟く。

「クラウスは卒業してしまったのだよ。だから、私が代わりに就任したんだ」

「ソツギョウ?」

「オウム君には少し難しいかな。私もまだよく解らないんだ。
クラウスがもうこの学院に居ないなんて、信じられない」

ジャワハルワールは無言でテオの頭に手を置いた。テオは不思議そうに、

「ジャワハルワール?」

続いて、浅黒い手はテオの左肩にポンと触れ、去っていった。


授業中もそれは続いた。
クラウスからテオへの交代劇は教授陣の間でも関心を惹いたらしく、
テオは各先生方からも励まし、労いの言葉を頂いた。
帝王学の講義では、教授が彼の名を呼んだ。

「ではクラウス、解りますか?」

返事がない。それで教授は気付いた。

「ああ、クラウスは卒業したのでしたね。すみません。
彼はとても優秀な生徒でしたから、授業をする側としても頼りになる存在だったのですが」

残念です、と教授は言った。

「実は、教師陣の間でも彼は有名人でした。クラウスが居る講義では、
いつも以上に入念な授業準備をしてしまうと。
私も彼が居た間は、毎週身の引き締まる想いで教壇に立っていましたから」

クラウスがいつも座っていた席。テオの隣だ。
今は空席になっている、その場所を教授は見ていた。あっ、と言って顔を上げる。

「クラウスが居なくなったからといって、
授業の質を下げるようなことはしませんので安心して下さいね。
そんなことをしたら、クラウスに怒られてしまいます」

視線を隣の席に移した教授は、テオを見て微笑んだ。
テオはビックリする。教授は優しい声でこう話し掛けた。

「クラウスから生徒代表を受け継いだのは、テオだそうですね?」

「あ、はい」

「毎年驚かされるのですが、学院の運営組織は、よくこれほどまでに、
的確な指名ができるものだと思いますよ」

「そうでしょうか?」

「ご自身はまだ実感がないようですね。
でも私も新しい生徒代表には君が最も適任だと思います。
皆さんも納得の結果ではないでしょうか?
テオが生徒代表に選ばれて納得した方は、挙手をお願いできますか?」

帝王学の受講生達が手を挙げていく。

「ほら。見て下さい、テオ。君以外、全員の手が上がっていますよ。
自信を持って、一年間、任務を全うして下さい。
今年は君が聖アルフォンソ島の帝王なのです。帝王学で学んできた知識が、
君のお役に立てるよう願っています。もちろん、テオだけでなく、
のちに帝王となる皆さんもお役立て下さい。
帝王学の知識は、貴方の良き側近となり、貴方を生涯支え続けてくれますよ」

鐘が鳴る。授業終了の合図だ。教授が照れ笑いする。

「すみません。話が横道に逸れたまま終わってしまいました。
こんなことでは、早速クラウスに怒られてしまいますね。
来週からは、また気を引き締めて授業をします。皆さんも協力して下さいね」


授業後、テオは一人で森に来た。
月桂樹の幹に凭れて座っている。目の前には泉がある。
水面に映る雲を、ただ、ぼんやり見つめていた。

どれくらい、そうしていただろう。ふと気が付いた時、辺りは真っ暗だった。
腕時計を身に付けない主義なので、今何時なのかも解らない。

こんなところで何をしているんだろう、私は。
いくら森に居たって、もう誰も迎えに来ないのに。

遠くに寮の灯りが見えた。いい加減、帰らなくては。私の帰る場所はあそこしかないのだから。
テオはゆっくりと立ち上がった。
足元がふらつく。近くの幹に手を付いて、身体を支えた。


夜。

「テオ?」

レオンがクラウスの部屋の前に居るテオを見る。

その部屋で待ってたって、もう誰も帰ってこないだろ。
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