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月桂樹の芽

『月桂樹の葉SS』のネタ帳です

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2026.07.05 (Sun) Category : 

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色とりどりの王子達6

2009.09.28 (Mon) Category : memo

リビングルームの聖アルフォンソチームは、ユウタが出してくれた麦茶を飲みながら、姉の帰りを待っていた。
ハルヤ以外の四名にとっては、今まで口にしたことがない飲み物だった。
「僕、これ飲んでみたかったんですよー! 美味しいですー!」
「うん。さっぱりしていて、飲み易いね」
「中途半端な苦味だね」
「薄っ!」
初めての麦茶は賛否両論のようだ。
一口飲んだきり、手を付けていないアルフレッドに、ユウタはインスタントのアイスコーヒーを淹れてくれた。
「ユウター。##NAME1##はまだ帰って来ないのかー?」
「もうすぐ帰ってくるんじゃないかなあ。夕食の買い物で、近所のスーパーに行っただけだし」
「今夜は##NAME1##の手料理が食べられるってことだよな! はるばる日本まで来て良かったぜー!」
麦茶を美味しそうに飲んでいたハルヤがぼそりと言う。
「##NAME1##は俺達が来るの知らないんだから、材料、絶対足りないと思うけど?」
「なにっ!? じゃあ、今すぐ、##NAME1##に電話して、俺達の分も」
アンリが口を挟む。
「電話で知らせたら、サプライズにならないけど。彼女を驚かせたいって言ったのは君じゃなかった?」
ちなみに、アンリのグラスも麦茶が減っていない。
「あっ、そうか。じゃあ、ユウタの分を俺が貰う! それでカイケツ!」
「えっ!? じゃあ俺は晩ご飯、何を食べればいいの?」
「デリバリーでも頼めば?」
「ああ。そっちのほうが美味しいかも。ピザでも頼む? みんなも」
「待って下さいよ! ##NAME1##の手料理は、僕も食べたいですー!」
「俺だってお姉さんのご飯が食べたいよ」
「俺も##NAME1##が良いけど、どうしようか」
「彼女の手料理を賭けて、勝負でもする? ポーカーで」
「ポーカーはナシ!」
「僕もナシだと思いまーす!」
「じゃあ、何」
「あっ、こういうのどうですか! 腕立て伏せ耐久レースとか!」
「ナシ!」
「体力勝負ならシルヴァンが勝つに決まってるじゃない」
「ポーカーだって、アンリが勝つに決まってるじゃないですかー」
「あの、みんな落ち着いて」
「めんどくさ……」
ピンポーン。ドアチャイムが鳴った。
「あっ! ##NAME1##が帰ってきた!」
立ち上がったアルフレッドに、アンリが冷たい吐息を漏らす。
「彼女じゃないよ」
「なんでだよ? だって、もうすぐ帰ってくるって、さっきユウタが」
「この家に住んでる人が、ベルを鳴らして入ってくると思う?」
「あー、そっか」
ユウタが腰を上げる。
「新聞屋さんかなー? あ、みんなはここに居て。俺、ちょっと行ってくるよ」
リビングを出て行く。
「あー。##NAME1##、早く帰ってこねーかなー」
「待ち遠しいですね。ドキドキしちゃいます!」
「迷惑がられないかなあ、こんな突然来て」
「ダーイジョーブだって! ##NAME1##と俺達の仲じゃん」
デッドプリンスが談笑している中、向かいのソファでは、
「カーディス1世とは、うまくやっているの?」
隣に居るジョショアにしか聞き取れない、小さな呟き。
「うん。大丈夫だよ」
同じ程度の声で返事をすると、ごく短い反応があった。
「そう」

ユウタは「はーい」と言いながら玄関に向かった。
ドアの向こうに居たのは、隣の家に住んでいる幼馴染みだった。
「ケイくん!?」
「あれ、ゆーくん。海外留学してるんじゃ」
「ケイくんだって、イギリスの大学に」
ケイの後ろから、金髪の外国人が現れた。
同性のユウタでもはっとする程のイケメンで、思わず見惚れてしまう。
「ケイ、彼が本物の弟か?」
イケメンがそう英語で話すとケイの言語も日本語から英語に切り替わった。
「うん。そうだよ」
晴れた青空のような瞳が、ユウタをじっくり観察する。
「へえ。弟だけあって、似てんのな、カオ。
お前もモテんだろ? 恋の相談ならいつでも乗ってやるぜ、のちの兄貴だしな?」
「え? ど、どういうイミ?」
「リチャード。いきなりそれはダメだって。気にしないでね、ゆーくん。えっと、ねーちゃん、居るかな?」
「姉貴? 姉貴なら、今、買い物行ってて、もうすぐ帰ってくると思うけど?」
「じゃあ、##NAME1##が来るまで待たせて貰おうぜ、イイよな、マイブラザー?」
「え、あ、あの」
「イイってさ。おい、お前らも上がれよ」


To be continued.

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色とりどりの王子達5

2009.09.28 (Mon) Category : memo

東京都内のゲームセンター。その一角に人だかりが出来ていた。
色素の薄い茶髪の外国人が、格闘ゲームのステージを次々にクリアしていくのだ。
装いは白のワイシャツに落ち着いたブラウンのジャケット。
また相手のコンピューターを打ち負かし、拍手とどよめきが起こった。
あと一回戦勝てば全クリ。難易度が高過ぎて、
幻と呼ばれるエンディング画面がすぐそこまで来ていた。
その異様な盛り上がりに背を向けて、クレーンゲームに熱中している外国人が居た。
長い髪をひとつに束ねている。彼の狙いは大きな犬のぬいぐるみらしい。
先程から何回も挑戦しているが、一度も成功していない。
彼等から少し離れたところには、金髪の外国人と日本人が居た。
遠巻きに格闘ゲームとクレーンゲームを観戦しながら立ち話をしている。
「じゃあ、##NAME1##に兄弟が居るのか?」
「うん。ユウタくんっていう弟が一人ね。俺はゆーくんって呼んでるけど。
小さい頃は、ねーちゃんとゆーくんと俺で、よく遊んでたんだ」
「成程。子どもの頃から、男慣れしてたのか。それで俺の前でもあの態度なわけね」
「男慣れって。ヘンな言い方しないでよ」
「で、子ども時代のお前達は、どんな遊びしてたわけ?」
「あのさ。さっきからねーちゃんのこと聞いてばっかだよ?
日本のゲーセンに行きたいって言い出したのはリチャードなのに。
最初にちょっとやっただけで、全然ゲームしてないしさ」
入店直後は金髪男も格闘ゲームで対戦プレイをしていたのだが、
一向に茶髪男に敵わないので、早々に撤退してきたのだ。開き直った男はこう言った。
「##NAME1##のこと知りたいって思うことのどこがいけないんだ?」
日本人は言い返せない。二人の視線の先に少し動きがあった。
クレーンゲーム下手な長髪男の横に、他の外国人がすっと来たのだ。
青い眼をした無表情の男。彼は先程から長髪男のプレイを見守っていた。
長髪の肩に手を置いて、無表情のまま短く何か言った。
すると、長髪男は場所を譲った。プレイヤーの立ち位置に付いた男はコインを投入した。
金髪男と日本人は、クレーンゲームと格闘ゲームを交互に見物しながら、話を続けている。
「その、本物の弟くんは、今幾つなんだ?」
「高2かな。でも日本には居ないんだ。ゆーくんも海外留学してるから」
「へえ?」
「実は俺、シェスカベリー大学に来たのは、ゆーくんが留学したから俺も、って思ったところもあるんだよね。
ゆーくんが留学してからのねーちゃんは、いつもゆーくんのこと心配してた。
俺とたまに会っても、ゆーくんの話ばっかりになって」
「つまり、ケイは、弟くんに負けない男になる為にイギリスに来たわけだな?」
「えっ? いや、そんな……他にも理由は色々あって……」
「今更隠すなよ、ケイ。まとめると、こういうことだろ?」
芝居がかった台詞回しで、拳を胸に置いた。
「ああ。俺はこんなに近くに居るのに、ねーちゃんは俺を見てくれない。
それなら俺も外国に行って、ねーちゃんを見返してやるんだ!」
握り締めた拳をパッと開き、小芝居が終わった。
「っつー意気込みで日本を出てきたんだろ? お前、意外と男気あるじゃん? ちょっと見直したわ」
「だから、俺は別に」
「だが、俺なら、弟くんが居ない隙に、##NAME1##に近付くかなあ。
寂しがってるうさぎちゃんを放っておくなんて、そんな勿体ないこと、俺にはできないから」
「ええっ!?」
日本人の驚きとは別に、大きな歓声が上がった。二人はそちらを見る。
格闘ゲームの画面に高画質のCGで描かれたエンディングが流れている。
ギャラリーの中には携帯電話でエンディングを記念撮影している者も居た。
「ユリウスの奴、やっと終わったか」
金髪男が日本人の肩に腕を回す。
「じゃ、そろそろ次行くか?」
「あー、もう行く? 俺んち」
金髪男はニヤリと笑う。
「の、隣」


To be continued.

色とりどりの王子達4

2009.09.25 (Fri) Category : memo

「ここが##NAME1##とユウタのおうちなんですねー。
ああっ! 奥に見えるのは、夢にまで見たタタミのお部屋じゃないですかっ!?」
「そうだけど、ちょ、ちょっと、シルヴァン!?」
シルヴァンは和室にコロコロと寝転がって、はしゃいでいた。
「これがタタミの香りなんですね! 僕、カンゲキですー!」
日本で秋が深まった頃。
卒業生を含め、ウーティス寮のメンバー六人が、ユウタの家に集結した。
そうとは知らないユウタの姉は、現在、夕食の買い物に出掛けている。
短い連休に帰省した弟に手料理を振舞う為だ。
姉が帰ってきたら、六人は「おかえり」と日本語で出迎えて、驚かせる予定だ。
ターゲットを待つ間、ユウタは五人の友達を、家の中で一番広いリビングルームに通した。
ここは洋室で、正面に薄型テレビ、その傍にソファがある。
きっとここで家族団欒の光景が描かれるのだろうと想像できる、あたたかな雰囲気の部屋だった。
手前にある一人掛けのソファにユウタが座る。いつもはお父さんが座る席だ。
二人掛けのソファには、ジョシュアとアンリが腰を下ろした。
その向かい、同じく二人掛けのソファに、アルフレッド、シルヴァン、ハルヤの三人が少しキツそうに座った。
シルヴァンの好奇心旺盛な瞳はキラキラと輝いている。
「日本のおうちは可愛らしいですよね。僕、大好きです」
「てか、狭くね?」
「レッド、そんなこと言っちゃダメですよ。これが日本のワサビなんです。ね、ハルヤ?」
「えっと、ワビサビのこと言いたいのかな、シルヴァンは」
「あっ、間違えちゃいましたっ」
「日本の一般家庭としては、ユウタんちは広い方だと思うよ、一軒家だし」
「これで!? こんな天井低いのに!?」
「レッドの家と比べてるからだよ」
「そーなのか? あとさ、あのヘンな白いドア、カギが付いてないみたいに見えんだけど?」
「あれは障子。白いのは和紙。紙でできたドアだからね、カギはないよ」
「紙!? 破けたら終わりじゃん!」
「うん。そうだね。日本では、室内のドアにはカギがないほうが普通だから。
障子だけじゃなくて、普通のドアでもね」
「マジで言ってんのかよ!? カギないとか紙でできてるとか、セキュリティ甘過ぎだろ!?
でもさ、流石に##NAME1##の部屋にはカギ付いてるよな?」
「姉貴の部屋にも、俺の部屋にも付いてないよ」
「おいおい! どんだけノンキなんだよ、ジャパニーズは!
##NAME1##が襲われたらどーすんだ!?」
ハルヤは笑っている。
「平気だってば。一応、治安は良いほうだからね、日本は」
ジョショアは感心した様子だった。
「そうなんだ、いい国だね」
隣に居るアンリは冷めた感想を述べた。
「成程ね。日本人が危機管理意識に欠けているのは、そのせいなのかな」
「え、そう?」とハルヤ。
「少なくとも僕の知ってる日本人は、三人とも、無闇に人を信じ易く、鈍感で、ぼーっとしているからね」
ハルヤが日本人的スマイルを見せる。
「俺達、ぼーっとしてるって思われてたんだ」
「ねえ。その三人の残りって、やっぱ俺と姉貴? 姉貴が鈍感なのは解るけど、俺はそこまで」
「お前もだよ」「君もだよ」
アルフレッドとアンリが同時に言ったので皆が吹き出した。
久々に揃ったメンバーを見ながら、ユウタはふと思う。
会えない時間があったにも関わらず、まるで昨日も寮で一緒だったみたいに話せてる。
それがユウタには嬉しくて、そのまま言葉にした。
「楽しいね」
皆がユウタを見る。
「レッドから、姉貴にナイショでうちに来たいって、聞いた時はビックリしたけど、
卒業したジョシュアとシルヴァンにも会えて嬉しいな。姉貴もきっと喜ぶよ」
アンリが隣に視線を流す。
「誘われるまま日本に来るなんて。よっぽど暇だったんだね、ジョシュア殿下?」
ジョシュアは柔らかく微笑した。
「アンリに噛み付かれるのも久し振りだね。今日は何て言われても許してしまいそうだな」
「ジョシュアのことは、俺達もテレビでチェックしてたんだぜ。な?」
アルフレッドに振られて、ハルヤが頷く。
「うん。この前の、馬術大会のとかね。ジョシュア、開会セレモニーで挨拶してたでしょ?」
「あ、うん」
ジョシュアは驚いたようだった。他の人より少しゆっくりしたペースでハルヤは話す。
「あの時のジョシュア、なんかすごくカッコ良かった。立派な王子様ってかんじで、
でも俺達の知ってるいつものジョシュアで、ほんと、すごいなあって思ったよ」
「俺から見てもイケてたぜ? 元がイイから、カメラ映りがイイのは当たり前だけどな!」
「ありがとう……なんだか照れくさいな、皆に見られたなんて」
「そりゃ見るさ! 俺、マスコミって今まで良いイメージなかったけど、
離れたトコに住んでるお前の顔が、寮のサロンに座ってても見れるのは、
あのたくさんのカメラのおかげなんだなって初めて思ったっつーか、
まあ、ちょっとカンシャしたっつーか? ちょっとな」
ハリウッドスターのアルフレッド・ヴィスコンティが、ポリポリと鼻先を掻いている。
「んで、ジョシュア。王子様の暮らしはどーなのよ? ツライことはないか?
何でも聞いてやるから、俺達にぶっちゃけてみ? マスコミには言わねーからさっ」
赤い瞳は少し俯いた後、改めて友人達を見つめ、実は、と切り出した。
「まだ誰にも言っていないことがあるんだ。学院の皆にしか話せないことだから」
「おっ! そういうのを待ってたんだよ! 言ってみ言ってみ?」
「学院を卒業すると、月桂樹の森を懐かしく思うっていう話は本当だったよ」
「えっ?」
ドロドロした王室の内部事情が告白されると予想していたアルフレッドは拍子抜けした。
「ロレートの大公家には、昔から月桂樹の庭があるんだけど、
島にある木と同じものではないから、葉の色や香りが微妙に違うんだ。
だから本当に、聖アルフォンソ島の月桂樹が懐かしいよ。……カーディスもそう思ってるのかな」
最後は独り言のようだった。学院の生徒でなければ伝わらない話なので、
このささやかな感想を他の人に言ったことがなかった。
それがやっと話せて、胸のつかえが取れたような、すっきりとした気持ちになった。
「今度、カーディス陛下に聞いてみては? 貴方も学院の月桂樹が懐かしいですか、って」
同学年でひとつ年上のシルヴァンが微笑み掛ける。
「きっとジョシュアと同じように感じていると思いますよ?
彼も僕達と同じマージナルプリンスなんですから」
優しい菫色の瞳に見つめられて、ジョシュアは素直に頷いた。
「うん。そうだね。帰ったら、カーディスに聞いてみようかな」
琥珀の瞳は、心の奥まで伺うように緋色の瞳を覗いていた。
アルフレッドは隣の卒業生に尋ねる。
「シルヴァンは、どこで何してんのか解んなかったけど、元気だったのか?」
「はい、もちろん」
「なら良いけどさ」
「今回は本当に、卒業生の僕達にも声を掛けてくれて、ありがとうございます。
皆さんにまた会えて、僕、とっても嬉しいです。
あっ、明日は皆さんで一緒にアキハバラに行きません?
それから、ハルヤのお母様のお店に行って、本場のアボカドまぐろ丼を食べさせて貰うんですー♪
あとあと! サムライの街のニッコウとキョートとハコダテと、
あっ、それからフクオカに行ってウメガエモチをお土産に買いましょう!」
「よく知ってるね? 梅ヶ枝餅なんて」
「はい。ハルヤのお祖父様と同じ名前だったので」
梅ヶ枝餅とは福岡にある太宰府天満宮の名菓である。
太宰府は、かつて菅原道真が無実の罪によって流された場所だ。
梅ヶ枝餅の起源については諸説あるが、一説には道真を哀れんだ老婆が、
梅の枝を添えた餅を差し入れたことが、梅ヶ枝餅の始まりだと伝えられている。
「でも、函館から福岡の移動距離、結構遠いと思うけど」
「カイロからトーキョーまでの距離に比べれば、すぐそこですよ♪」
「シルヴァン、エジプトから来たの?」
「あっ、ええ、まあ。あの、あんまり言っちゃいけないことなんで、ご内密に」
本人以外の五人は、それぞれの顔をして、友人の表情を見つめる。
場が少し沈黙して、シルヴァンが困った笑顔を浮かべた。取り繕おうとして、何か言おうとした時。
「あの、さっきから、気になってたんだけど」
眼鏡の奥の瞳が、控えめに言った。
「シルヴァンさ、ちょっと痩せてない?」
「え? そうですか?」
「あ、やっぱそうだよな!? 俺も言おうと思ってたんだよ!」
力強くアルフレッドが同意する。
「ガッコに居た時より、確実に細くなってるぞ、お前!」
「自分では気付きませんでしたが、レッドとハルヤに言われるということは、そうなんでしょうねえ」
「そうなんでしょうねえ、じゃねえよ! ったく、元々痩せてんのに。きっとココも」
人差し指で。腹筋の中央をなぞる。はっきりと溝ができていた。
「やっぱ、前よりくっきり割れてんじゃねーか。どんだけ筋トレしてんだよ、お前」
「止めて下さいよっ。僕、ソコ弱いんですからっ」
「知ってるっつの」
両手でシルヴァンの脇腹をくすぐる。
「やっ、レッド、ダメですってば、あははっ」

「あ、そうだ。ユウタ、ご両親は二階かい?」
ジョショアの言葉に視線が集まる。
「それとも出掛けているのかな? あとでも良いんだけど、迷惑でなければご挨拶させて欲しいな」
「えっ、ジョシュアがうちの親に?」
「うん。俺達、##NAME1##とユウタには本当に感謝し切れないほどお世話になってきたし、
君達姉弟のご両親はどんな人なのかなって、実はずっと気になってて」
「あっ! 俺も見たい見たい! 子どもと激似なんだろうけどっ!」
「##NAME1##のご両親にご挨拶? 僕もしたいですー!」
すぐさま、アルフレッドとシルヴァンが賛成した。
「あ、ごめん。今日と明日は居ないんだ。温泉旅行中なんだよ、二人でね」
「わお! ユウタのパパさんとママさん、ラブラブなんですね♪」
「別に、そんなんじゃないんだけど」
身内を褒められると謙遜して否定する。ユウタは日本人特有のリアクションを見せた後、事情を説明した。
「あのね、父さんと母さんには、みんながうちに来ること話したんだよ。
そしたら急に私達は温泉に行ってくるから、みんなで仲良くね、って」
「えっ!? じゃあ俺達、今夜は##NAME1##と同じ部屋で眠ってイイってことかよ!?」
「や。俺達は、姉貴とは別の部屋で雑魚寝だよ?」
「なんだー、ムダな期待させんなよー」
「##NAME1##のベッドで眠っていいのかなーって、ちょっと期待しちゃいました♪」
「だ、ダメだよ! てゆうか姉貴は布団じゃなくてベッドだし」
「シルヴァン! お前はキケンだから外で寝てろ、外で!」
「えー。イヤですー!」


To be continued.

色とりどりの王子達5

2009.09.25 (Fri) Category : memo

その一時間程前。
東京都内のゲームセンター。その一角に人だかりが出来ていた。
格闘ゲームのシングルプレイで、色素の薄い茶髪の外国人が新記録を更新し続けているのだ。
装いは白のワイシャツに落ち着いたブラウンのジャケット。
また相手のコンピューターを打ち負かし、拍手とどよめきが起こった。
あと一回戦勝てば全部クリア。難易度が高過ぎて、幻と呼ばれるエンディング画面がすぐそこまで来ているからだ。
その異様な盛り上がりに背を向けて、クレーンゲームに熱中している外国人が居た。
長い髪をひとつに束ねている。彼の狙いは大きな犬のぬいぐるみらしい。先程から何回も挑戦しているが、一度も成功していない。
彼等から少し離れたところには、金髪の外国人と日本人が居た。
遠巻きに格闘ゲームとクレーンゲームを観戦しながら立ち話に興じていた。
「##NAME1##に兄弟が居るのか?」
「うん。ユウタくんっていう弟が一人ね。俺はゆーくんって呼んでるけど。
小さい頃は、ねーちゃんとゆーくんと俺で、よく遊んでたんだ」
「成程。子どもの頃から、男慣れしてたのか。それで俺の前でもあの態度なわけね」
「男慣れって。ヘンな言い方しないでよ」
「で、子ども時代のお前達は、どんな遊びしてたわけ?」
「あのさ。さっきからねーちゃんのこと聞いてばっかだよ? 日本のゲーセンに行きたいって言い出したのはリチャードなのに。
最初にちょっとやっただけで、全然ゲームしてないしさ」
入店直後は金髪男も格闘ゲームで対戦プレイをしていたのだが、一向に茶髪男に敵わないので、早々に撤退してきたのだ。
開き直った男はこう言った。
「##NAME1##のこと知りたいって思うことのどこがいけないんだ?」
日本人は言い返せない。二人の視線の先に少し動きがあった。
クレーンゲーム下手な長髪男の横に、他の外国人がすっと来たのだ。
青い眼をした無表情の男。彼は先程から長髪男のプレイを見守っていた。
長髪の肩に手を置いて、無表情のまま短く何か言った。
すると、長髪男は場所を譲った。プレイヤーの立ち位置に付いた男はコインを投入した。
金髪男と日本人は、クレーンゲームと格闘ゲームを交互に見物しながら、話を続けている。
「その、本物の弟くんは、今幾つなんだ?」
「高2かな。でも日本には居ないんだ。ゆーくんも海外留学してるから」
「へえ?」
「実は俺、シェスカベリー大学に来たのは、ゆーくんが留学したから俺も、って思ったところもあるんだよね。
ゆーくんが留学してからのねーちゃんは、いつもゆーくんのこと心配してた。
俺とたまに会っても、ゆーくんの話ばっかりになって」
「つまり、ケイは、弟くんに負けない男になる為にイギリスに来たわけだな?」
「えっ? いや、そんな……他にも理由は色々あって……」
「今更隠すなよ、ケイ。まとめると、こういうことだろ?」
芝居がかった台詞回しで、拳を胸に置いた。
「ああ。俺はこんなに近くに居るのに、ねーちゃんは俺を見てくれない。
それなら俺も外国に行って、ねーちゃんを見返してやるんだ!」
握り締めた拳をパッと開き、小芝居が終わった。
「っつー意気込みで日本を出てきたんだろ? お前、意外と男気あるじゃん? 男としてちょっと見直したわ」
「だから、俺は別に」
「だが、俺なら、弟くんが居ない隙に、##NAME1##に近付くかなあ。
寂しがってるうさぎちゃんを放っておくなんて、そんな勿体ないこと、俺にはできないから」
「ええっ!?」
日本人の驚きとは別に、大きな歓声が上がった。二人はそちらを見る。
格闘ゲームの画面に高画質のCGで描かれたエンディングが流れている。
ギャラリーの中には携帯電話でエンディングを記念撮影している者も居た。
「ユリウスの奴、やっと終わったか」
金髪男が日本人の肩に腕を回す。
「じゃ、そろそろ次行くか?」
「あー、もう行く? 俺んち」
金髪男はニヤリと笑う。
「の、隣」


To be continued.

色とりどりの王子達4

2009.09.25 (Fri) Category : memo

「ここが##NAME1##とユウタのおうちなんですねー。
ああっ! 奥に見えるのは、夢にまで見たタタミのお部屋じゃないですかっ!?」
「そうだけど、ちょ、ちょっと、シルヴァン!?」
シルヴァンは和室にコロコロと寝転がって、はしゃいでいた。
「これがタタミの香りなんですね! 僕、カンゲキですー!」
日本で秋が深まった頃。
卒業生を含め、ウーティス寮のメンバー六人が、ユウタの家に集結した。
そうとは知らないユウタの姉は、現在、夕食の買い物に出掛けている。
短い連休に帰省した弟に手料理を振舞う為だ。
姉が帰ってきたら、六人は「おかえり」と日本語で出迎えて、驚かせる予定だ。
ターゲットを待つ間、ユウタは五人の友達を、家の中で一番広いリビングルームに通した。
ここは洋室で、正面に薄型テレビ、その傍にソファがある。
きっとここで家族団欒の光景が描かれるのだろうと想像できる、あたたかな雰囲気の部屋だった。
手前にある一人掛けのソファにユウタが座る。いつもはお父さんが座る席だ。
二人掛けのソファには、ジョシュアとアンリが腰を下ろした。
その向かい、同じく二人掛けのソファに、アルフレッド、シルヴァン、ハルヤの三人が少しキツそうに座った。
シルヴァンの好奇心旺盛な瞳はキラキラと輝いている。
「日本のおうちは可愛らしいですよね。僕、大好きです」
「てか、狭くね?」
「レッド、そんなこと言っちゃダメですよ。これが日本のワサビなんです。ね、ハルヤ?」
「えっと、ワビサビのこと言いたいのかな、シルヴァンは」
「あっ、間違えちゃいましたっ」
「日本の一般家庭としては、ユウタんちは広い方だと思うよ、一軒家だし」
「これで!? こんな天井低いのに!?」
「レッドの家と比べてるからだよ」
「そーなのか? あとさ、あのヘンな白いドア、カギが付いてないみたいに見えんだけど?」
「あれは障子。白いのは和紙。紙でできたドアだからね、カギはないよ」
「紙!? 破けたら終わりじゃん!」
「うん。そうだね。日本では、室内のドアにはカギがないほうが普通だから。
障子だけじゃなくて、普通のドアでもね」
「マジで言ってんのかよ!? カギないとか紙でできてるとか、セキュリティ甘過ぎだろ!?
でもさ、流石に##NAME1##の部屋には付いてるよな?」
「姉貴の部屋にも、俺の部屋にも付いてないよ」
「おいおい! どんだけノンキなんだよ、ジャパニーズは!
##NAME1##が襲われたらどーすんだ!?」
ハルヤは笑っている。
「平気だってば。一応、治安は良いほうだからね、日本は」
ジョショアは感心した様子だった。
「そうなんだ、いい国だね」
隣に居るアンリは冷めた感想を述べた。
「成程ね。日本人が危機管理意識に欠けているのは、そのせいなのかな」
「え、そう?」とハルヤ。
「少なくとも僕の知ってる日本人は、三人とも、無闇に人を信じ易く、鈍感で、ぼーっとしているからね」
ハルヤが日本人的スマイルを見せる。
「俺達、ぼーっとしてるって思われてたんだ」
「ねえ。その三人の残りって、やっぱ俺と姉貴? 姉貴が鈍感なのは解るけど、俺はそこまで」
「お前もだよ」「君もだよ」
アルフレッドとアンリが同時に言ったので皆が吹き出した。
「あ、そうだ。ユウタ、ご両親は二階かい?」
ジョショアの言葉に視線が集まる。
「それとも出掛けているのかな? あとでも良いんだけど、迷惑でなければご挨拶させて欲しいな」
「えっ、ジョシュアがうちの親に?」
「うん。俺達、##NAME1##とユウタには本当に感謝し切れないほどお世話になってきたし、
君達姉弟のご両親はどんな人なのかなって、実はずっと気になってて」
「あっ! 俺も見たい見たい! 子どもと激似なんだろうけどっ!」
「##NAME1##のご両親にご挨拶? 僕もしたいですー!」
すぐさま、アルフレッドとシルヴァンが賛成した。
「あ、ごめん。今日と明日は居ないんだ。温泉旅行中なんだよ、二人でね」
「わお! ユウタのパパさんとママさん、ラブラブなんですね♪」
「別に、そんなんじゃないんだけど」
身内を褒められると謙遜して否定する。ユウタは日本人特有のリアクションを見せた後、事情を説明した。
「あのね、父さんと母さんには、みんながうちに来ること話したんだよ。
そしたら急に私達は温泉に行ってくるから、みんなで仲良くね、って」
「えっ!? じゃあ俺達、今夜は##NAME1##と同じ家で眠ってイイってことかよ!?」
「や。俺達は、姉貴とは別の部屋で雑魚寝だよ?」
「なんだー、ムダな期待させんなよー」
「##NAME1##のお布団で眠っていいのかなーって、ちょっと期待しちゃいました♪」
「だ、ダメだよ! てゆうか姉貴は布団じゃなくてベッドだし」
「シルヴァン! お前はキケンだから外で寝てろ、外で!」
久々に揃ったメンバーを見ながら、ユウタはふと思う。
会えない時間があったにも関わらず、まるで昨日も寮で一緒だったみたいに話せてる。
それがユウタには嬉しくて、そのまま言葉にした。
「楽しいね」
皆がユウタを見る。
「レッドから、姉貴にナイショでうちに来たいって、聞いた時はビックリしたけど、
卒業したジョシュアとシルヴァンにも会えて嬉しいな。姉貴もきっと喜ぶよ」
アンリが隣に視線を流す。
「誘われるまま日本に来るなんて。よっぽど暇だったんだね、ジョシュア殿下?」
ジョシュアは柔らかく微笑した。
「アンリに噛み付かれるのも久し振りだね。今日は何て言われても許してしまいそうだな」
「ジョシュアのことは、俺達もテレビでチェックしてたんだぜ。な?」
アルフレッドに振られて、ハルヤが頷く。
「うん。この前の、馬術大会のとかね。ジョシュア、開会セレモニーで挨拶してたでしょ?」
「あ、うん」
ジョシュアは驚いたようだった。他の人より少しゆっくりしたペースでハルヤは話す。
「あの時のジョシュア、なんかすごくカッコ良かった。立派な王子様ってかんじで、
でも俺達の知ってるいつものジョシュアで、ほんと、すごいなあって思ったよ」
「俺から見てもイケてたぜ? 元がイイから、カメラ映りがイイのは当たり前だけどな!」
「ありがとう……なんだか照れくさいな、皆に見られたなんて」
「そりゃ見るさ! 俺、マスコミって今まで良いイメージなかったけど、
離れたトコに住んでるお前の顔が、寮のサロンに座ってても見れるのは、
あのたくさんのカメラのおかげなんだなって初めて思ったっつーか、
まあ、ちょっとカンシャしたっつーか? ちょっとな」
ハリウッドスターのアルフレッド・ヴィスコンティが、ポリポリと鼻先を掻いている。
「んで、ジョシュア。王子様の暮らしはどーなのよ? ツライことはないか?
何でも聞いてやるから、俺達にぶっちゃけてみ? マスコミには言わねーからさっ」
赤い瞳は少し俯いた後、改めて友人達を見つめ、実は、と切り出した。
「まだ誰にも言っていないことがあるんだ。学院の皆にしか話せないことだから」
「おっ! そういうのを待ってたんだよ! 言ってみ言ってみ?」
「学院を卒業すると、月桂樹の森を懐かしく思うっていう話は本当だったよ」
「えっ?」
ドロドロした王室の内部事情が告白されると予想していたアルフレッドは拍子抜けした。
「ロレートの大公家には、昔から月桂樹の庭があるんだけど、
島にある木と同じものではないから、葉の色や香りが微妙に違うんだ。
だから本当に、聖アルフォンソ島の月桂樹が懐かしいよ。……カーディスもそう思ってるのかな」
最後は独り言のようだった。学院の生徒でなければ伝わらない話なので、
このささやかな感想を他の人に言ったことがなかった。
それがやっと話せて、胸のつかえが取れたような、すっきりとした気持ちになった。
「今度、カーディス陛下に聞いてみては? 貴方も学院の月桂樹が懐かしいですか、って」
同学年でひとつ年上のシルヴァンが微笑み掛ける。
「きっとジョシュアと同じように感じていると思いますよ?
彼も僕達と同じマージナルプリンスなんですから」
優しい菫色の瞳に見つめられて、ジョシュアは素直に頷いた。
「うん。そうだね。帰ったら、カーディスに聞いてみようかな」
琥珀の瞳は、心の奥まで伺うように緋色の瞳を覗いていた。
アルフレッドは隣の卒業生に尋ねる。
「シルヴァンは、どこで何してんのか解んなかったけど、元気だったのか?」
「はい、もちろん」
「なら良いけどさ」
「今回は本当に、卒業生の僕達にも声を掛けてくれて、ありがとうございます。
皆さんにまた会えて、僕、とっても嬉しいです。
あっ、明日は皆さんで一緒にアキハバラに行きません?
それから、ハルヤのお母様のお店に行って、本場のアボカドまぐろ丼を食べさせて貰うんですー♪
あとあと! サムライの街のニッコウとキョートとハコダテと、
あっ、それからフクオカに行ってウメガエモチをお土産に買いましょう!」
「よく知ってるね? 梅ヶ枝餅なんて」
「はい。ハルヤのお祖父様と同じ名前だったので」
梅ヶ枝餅とは福岡にある太宰府天満宮の名菓である。
太宰府は、かつて菅原道真が無実の罪によって流された場所だ。
梅ヶ枝餅の起源については諸説あるが、一説には道真を哀れんだ老婆が、
梅の枝を添えた餅を差し入れたことが、梅ヶ枝餅の始まりだと伝えられている。
「でも、函館から福岡の移動距離、結構遠いと思うけど」
「カイロからトーキョーまでの距離に比べれば、すぐそこですよ♪」
「シルヴァン、エジプトから来たの?」
「あっ、ええ、まあ。あの、あんまり言っちゃいけないことなんで、ご内密に」
本人以外の五人は、それぞれの顔をして、友人の表情を見つめる。
場が少し沈黙して、シルヴァンが困った笑顔を浮かべた。取り繕おうとして、何か言おうとした時。
「あの、さっきから、気になってたんだけど」
眼鏡の奥の瞳が、控えめに言った。
「シルヴァンさ、ちょっと痩せてない?」
「え? そうですか?」
「あ、やっぱそうだよな!? 俺も言おうと思ってたんだよ!」
力強くアルフレッドが同意する。
「ガッコに居た時より、確実に細くなってるぞ、お前!」
「自分では気付きませんでしたが、レッドとハルヤに言われるということは、そうなんでしょうねえ」
「そうなんでしょうねえ、じゃねえよ! ったく、元々痩せてんのに。きっとココも」
人差し指で。腹筋の中央をなぞる。はっきりと溝ができていた。
「やっぱ、前よりくっきり割れてんじゃねーか。どんだけ筋トレしてんだよ、お前」
「止めて下さいよっ。僕、ソコ弱いんですからっ」
「知ってるっつの」
両手でシルヴァンの脇腹をくすぐる。
「やっ、レッド、ダメですってば、あははっ」


To be continued.

色とりどりの王子達4

2009.09.24 (Thu) Category : memo

「ここが##NAME1##とユウタの家なんですねー!
あっ! 奥に見えるのは、夢にまで見たタタミのお部屋じゃないですかっ!?」
「そうだけど、ちょ、ちょっと、シルヴァン!?」
シルヴァンは和室にコロコロと寝転がって、はしゃいでいた。
「うわー! これがタタミの匂いなんですねー! 僕、カンゲキですー!」
日本で秋が深まった頃。
卒業生を含め、ウーティス寮のメンバー六人が、ユウタの家に集結した。
そうとは知らないユウタの姉は、現在、夕食の買い物に出掛けている。
短い連休に帰省した弟に手料理を振舞う為だ。
姉が帰ってきたら、六人は「おかえり」と日本語で出迎えて、驚かせる予定だ。
ターゲットを待つ間、ユウタは五人の友達を、家の中で一番広いリビングルームに通した。
ここは洋室で、正面に薄型テレビ、その傍にソファがある。
きっとここで家族団欒の光景が描かれるのだろうと想像できる、あたたかな雰囲気の部屋だった。
手前にある一人掛けのソファにユウタが座る。いつもはお父さんが座る席だ。
二人掛けのソファには、ジョシュアとアンリが腰を下ろした。
その向かい、同じく二人掛けのソファに、アルフレッド、シルヴァン、ハルヤの三人が少しキツそうに座った。
シルヴァンの好奇心旺盛な瞳はキラキラと輝いている。
「日本のおうちは可愛らしいですよね。僕、大好きです」
「てか、狭くね?」
「レッド、そんなこと言っちゃダメですよ。これが日本のワサビなんです。ね、ハルヤ」
「えっと、ワビサビのこと言いたいのかな、シルヴァンは」
「あっ、間違えちゃいましたっ」
「日本の一般家庭としては、ユウタんちは広い方だと思うよ、一軒家だし」
「これで!? こんな天井低いのに!?」
「レッドの家と比べてるからだよ」
「そーなのか? あとさ、ドアにカギが付いてないみたいに見えんだけど?」
「うん。ないよ。日本の家では、室内のドアにはカギがないほうが普通だから」
「マジで!? セキュリティ甘過ぎだろ。でもさ、流石に##NAME1##の部屋には付いてるよな?」
「姉貴の部屋にも、俺の部屋にも付いてないよ」
「おいおい! どんだけノンキなんだよ、ジャパニーズは!
##NAME1##が襲われたらどーすんだ!?」ハルヤは笑っている。
「平気だってば。一応、治安は良いほうだからね、日本は」
ジョショアは感心した様子だった。
「そうなんだ、いい国だね」
隣に居るアンリは冷めた感想を述べた。
「成程ね。日本人が危機管理意識に欠けているのは、そのせいなのかな」
「え、そう?」とハルヤ。
「少なくとも僕の知ってる日本人は、三人とも、無闇に人を信じ易く、鈍感で、ぼーっとしているからね」
ハルヤが日本人的スマイルを見せる。
「俺達、ぼーっとしてるって思われてたんだ」
「ねえ。その三人の残りって、やっぱ俺と姉貴? 姉貴が鈍感なのは解るけど、俺はそこまで」
「お前もだよ」「君もだよ」
アルフレッドとアンリが同時に言ったので皆が吹き出した。
ユウタは皆の顔を見た。久々に揃ったメンバーが笑っている。
会えない時間があったにも関わらず、まるで昨日も寮で一緒だったみたいに話せてる。
それがユウタには嬉しくて、そのまま言葉にした。
「楽しいね」
皆がユウタを見る。
「レッドから、姉貴にナイショでうちに来たいって、聞いた時はビックリしたけど、
卒業したジョシュアとシルヴァンにも会えて嬉しいな。姉貴もきっと喜ぶよ」
アンリが隣に視線を流す。
「誘われるまま日本に来るなんて。よっぽど暇だったんだね、ジョシュア殿下?」
ジョシュアは柔らかく微笑した。
「アンリに噛み付かれるのも久し振りだね。今日は何て言われても許してしまいそうだな」
「ジョシュアのことは、俺達もテレビでチェックしてたんだぜ。な?」
アルフレッドに振られて、ハルヤが頷く。
「うん。この前の、馬術大会のとかね。ジョシュア、開会セレモニーで挨拶してたでしょ?」
「あ、うん」
ジョシュアは驚いたようだった。他の人より少しゆっくりしたペースでハルヤは話す。
「あの時のジョシュア、なんかすごくカッコ良かった。立派な王子様ってかんじで、
でも俺達の知ってるいつものジョシュアで、ほんと、すごいなあって思ったよ」
「俺から見てもイケてたぜ? 元がイイから、カメラ映りがイイのは当たり前だけどな!」
「ありがとう……なんだか照れくさいな、皆に見られたなんて」
「そりゃ見るさ! 俺、マスコミって今まで良いイメージなかったけど、
離れたトコに住んでるお前の顔が、寮のサロンに座ってても見れるのは、
あのたくさんのカメラのおかげなんだなって初めて思ったっつーか、
まあ、ちょっとカンシャしたっつーか? ちょっとな」
ハリウッドスターのアルフレッド・ヴィスコンティが、ポリポリと鼻先を掻いている。
「んで、ジョシュア。王子様の暮らしはどーなのよ?
何でも聞いてやるから、俺達にぶっちゃけてみ? マスコミには言わねーからさっ」
赤い瞳は少し俯いた後、改めて友人達を見つめ、実は、と切り出した。
「まだ誰にも言っていないことがあるんだ。学院の皆にしか話せないことだから」
「おっ! そういうのを待ってたんだよ! 言ってみ言ってみ?」
「学院を卒業すると、月桂樹の森を懐かしく思うっていう話は本当だったよ」
「えっ?」
ドロドロした王室の内部事情が聞けると予想していたアルフレッドは拍子抜けした。
「ロレートの大公家には、昔から月桂樹の庭があるんだけど、
島にある木と同じものではないから、葉の色や香りが微妙に違うんだ。
……カーディスも、同じこと思っているのかな」
最後は独り言のようだった。学院の生徒でなければ伝わらない話なので、
このささやかな感想を他の人に言ったことがなかった。それが今、親しい友人達にやっと話せて、
少し胸のつかえが取れたような、すっきりとした気持ちになった。
「今度、カーディス陛下に聞いてみては?」
同学年でひとつ年上のシルヴァンが微笑み掛ける。
「きっとジョシュアと同じように感じていると思いますよ?
彼も僕達と同じマージナルプリンスなんですから」
優しい菫色の瞳に見つめられて、ジョシュアは素直に頷いた。
「うん。そうだね。帰ったら、カーディスに聞いてみようかな」
琥珀の瞳は、心の奥まで伺うように緋色の瞳を覗いていた。
アルフレッドは隣の卒業生に尋ねる。
「シルヴァンは、どこで何してんのか解んなかったけど、元気だったのか?」
「はい、もちろん」
「なら良いけどさ」
「今回は本当に、卒業生の僕達にも声を掛けてくれて、ありがとうございます。
皆さんにまた会えて、僕、とっても嬉しいです。
あっ、明日は皆さんで一緒にアキハバラに行きません?
それから、ハルヤのお母様のお店に行って、本場のアボカドまぐろ丼を食べさせて貰うんですー♪
あとあと! サムライの街のニッコウとキョートとハコダテと、
あっ、それからフクオカに行ってウメガエモチをお土産に買いましょう!」
「よく知ってるね? 梅ヶ枝餅なんて」
「はい。ハルヤのお祖父様と同じ名前だったので」
梅ヶ枝餅とは福岡にある太宰府天満宮の名菓である。
太宰府は、かつて、菅原道真が無実の罪によって流された場所。
道真を哀れんだ老婆が、梅の枝を添えた餅を差し入れたことが、梅ヶ枝餅の始まりだと伝えられている。
「でも、函館から福岡の移動距離、結構遠いと思うけど」
「カイロからトーキョーまでの距離に比べれば、すぐそこですよ♪」
「シルヴァン、エジプトから来たの?」
「あっ、ええ、まあ。あの、あんまり言っちゃいけないことなんで、ご内密に」
本人以外の五人は、それぞれの顔をして、友人の表情を見つめる。
場が少し沈黙して、シルヴァンが困った笑顔を浮かべた。取り繕おうとして、何か言おうとした時。
「あの、さっきから、気になってたんだけど」
眼鏡の奥の瞳が、控えめに言った。
「シルヴァンさ、ちょっと痩せてない?」
「え? そうですか?」
「あ、やっぱそうだよな!? 俺も言おうと思ってたんだよ!」
力強くアルフレッドが同意する。
「ガッコに居た時より、確実に細くなってるぞ、お前!」
「自分では気付きませんでしたが、レッドとハルヤに言われるということは、そうなんでしょうねえ」
「そうなんでしょうねえ、じゃねえよ! ったく、元々痩せてんのに。きっとココも」
アルフレッドの人差し指は、シルヴァンの腹筋にできた溝をつうとなぞった。
「やっぱ、前よりくっきり割れてんな。どんだけ筋トレしてんだよ、お前」
「そんなトコ、触らないで下さいよ、僕、ソコ弱いんですからっ」
「知ってるっつの」
アルフレッドはシルヴァンに覆い被さって、脇腹をくすぐる。
「あんっ、もうレッド、止めて下さいっ、あははっ」
他の四人は苦笑しながら、二人を見守っていた。
「あ、そうだ。ユウタ、ご両親は二階かい?」
ジョショアの言葉に皆が振り向いた。
「それとも出掛けているのかな? あとでも良いんだけど、迷惑でなければご挨拶させて欲しいな」
「えっ、ジョシュアがうちの親に?」
「うん。俺達、##NAME1##とユウタには本当に感謝し切れないほどお世話になってきたし、
君達姉弟のご両親はどんな人なのかなって、実はずっと気になってて」
「あっ! 俺も見たい見たい! 子どもと激似なんだろうけどっ!」
「僕もお話ししたいですー!」
すぐさま、アルフレッドとシルヴァンが賛成した。
「あ、ごめん。今日と明日は居ないんだ。温泉旅行中なんだよ、二人でね」
「わお! ユウタのパパさんとママさん、ラブラブなんですね♪」
「別に、そんなんじゃないんだけど」
身内を褒められると謙遜して否定する。ユウタは日本人特有のリアクションを見せた後、事情を説明した。
「あのね、父さんと母さんには、みんながうちに来ること話したんだよ。
そしたら急に私達は温泉に行ってくるから、みんなで仲良くね、って」
「えっ!? じゃあ俺達、今夜は##NAME1##と同じ家で眠ってイイってことかよ!?」
「や。俺達は、姉貴とは別の部屋で雑魚寝だよ?」
「なんだー、ムダな期待させんなよー」
「##NAME1##のお布団で眠っていいのかなーって、ちょっと期待しちゃいました♪」
「だ、ダメだよ! てゆうか姉貴は布団じゃなくてベッドだし」
「シルヴァン! お前はキケンだから外で寝てろ、外で!」


その一時間程前。
東京都内のゲームセンター。その一角に人だかりが出来ていた。
格闘ゲームのシングルプレイで、ある外国人が新記録を更新し続けているのだ。
また一人、相手のコンピューターを打ち負かし、拍手とどよめきが起こった。
長い髪をひとつに束ねている外国人は、クレーンゲームをプレイ中。
狙いは大きな犬のぬいぐるみらしい。先程から何回も挑戦しているが、一度も成功していない。
彼等から少し離れたところで、金髪の外国人は日本人の友人とジュースを飲んでいた。
「確か、##NAME1##には弟が居るんだよな? 名前は?」

色とりどりの王子達4

2009.09.23 (Wed) Category : memo

「ここが##NAME1##とユウタの家なんですねー!
あっ! 奥に見えるのは、夢にまで見たタタミのお部屋じゃないですかっ!?」
「そうだけど、ちょ、ちょっと、シルヴァン!?」
シルヴァンは和室にコロコロと寝転がって、はしゃいでいた。
「うわー! これがタタミの匂いなんですねー! 僕、カンゲキですー!」
「ああ、そんなことしてたら、服に畳のい草、付いちゃうよー」
日本で秋が深まった頃。
卒業生を含め、ウーティス寮のメンバー六人が、ユウタの家に集結した。
そうとは知らないユウタの姉は、現在、夕食の買い物に出掛けている。
短い連休に帰省した弟に手料理を振舞う為だ。
姉が帰ってきたら、六人は「おかえり」と日本語で出迎えて、驚かせる予定だ。
ターゲットを待つ間、ユウタは五人の友達を、家の中で一番広いリビングルームに通した。
ここは洋室で、正面に薄型テレビ、その傍にソファがある。
きっとここで家族団欒の光景が描かれるのだろうと、想像できるあたたかな雰囲気の部屋だった。
手前にある一人掛けのソファにユウタが座る。いつもはお父さんが座る席だ。
二人掛けのソファには、ジョシュアとアンリが腰を下ろした。
その向かい、同じく二人掛けのソファに、アルフレッド、シルヴァン、ハルヤの三人が少しキツそうに座った。
シルヴァンの好奇心旺盛な瞳はキラキラと輝いている。
「日本のおうちは可愛らしいですよね。僕、大好きです」
「てか、狭くね?」
「レッド、そんなこと言っちゃダメですよ。これが日本のワサビなんです。ね、ハルヤ」
「えっと、ワビサビのこと言いたいのかな、シルヴァンは」
「あっ、間違えちゃいましたっ」
「日本の一般家庭としては、ユウタんちは広い方だと思うよ、一軒家だし」
「これで!? こんな天井低いのに!?」
「レッドの家と比べてるからだよ」
「そーなのか? あとさ、ドアにカギが付いてないみたいに見えんだけど?」
「うん。ないよ。日本の家では、室内のドアにはカギがないほうが普通だから」
「マジで!? セキュリティ甘過ぎだろ。でもさ、流石に##NAME1##の部屋には付いてるよな?」
「姉貴の部屋にも、俺の部屋にも付いてないよ」
「おいおい! どんだけノンキなんだよ、ジャパニーズは!
##NAME1##が襲われたらどーすんだ!?」ハルヤは笑っている。
「平気だってば。一応、治安は良いほうだからね、日本は」
ジョショアは感心した様子だった。
「そうなんだ、いい国だね」
隣に居るアンリは冷めた感想を述べた。
「成程ね。日本人が危機管理意識に欠けているのは、そのせいなのかな」
「え、そう?」とハルヤ。
「少なくとも僕の知ってる日本人は、三人とも、無闇に人を信じ易く、鈍感で、ぼーっとしているからね」
ハルヤが日本人的スマイルを見せる。
「俺達、ぼーっとしてるって思われてたんだ」
「ねえ。その三人の残りって、やっぱ俺と姉貴? 姉貴が鈍感なのは解るけど、俺はそこまで」
「お前もだよ」「君もだよ」
アルフレッドとアンリが同時に言ったので皆が吹き出した。
ユウタは皆の顔を見た。久々に揃ったメンバーが笑っている。
会えない時間があったにも関わらず、まるで昨日も寮で一緒だったみたいに話せてる。
それがユウタには嬉しくて、そのまま言葉にした。
「楽しいね」
皆がユウタを見る。
「レッドから、姉貴にナイショでうちに来たいって、聞いた時はビックリしたけど、
卒業したジョシュアとシルヴァンにも会えて嬉しいな。姉貴もきっと喜ぶよ」
アンリが隣に視線を流す。
「誘われるまま日本に来るなんて。よっぽど暇だったんだね、ジョシュア殿下?」
ジョシュアは柔らかく微笑した。
「アンリに噛み付かれるのも久し振りだね。今日は何て言われても許してしまいそうだな」
「ジョシュアのことは、俺達もテレビでチェックしてたんだぜ。な?」
アルフレッドに振られて、ハルヤが頷く。
「うん。この前の、馬術大会のとかね。ジョシュア、開会セレモニーで挨拶してたでしょ?」
「あ、うん」
ジョシュアは驚いたようだった。他の人より少しゆっくりしたペースでハルヤは話す。
「あの時のジョシュア、なんかすごくカッコ良かった。立派な王子様ってかんじで、
でも俺達の知ってるいつものジョシュアで、ほんと、すごいなあって思ったよ」
「俺から見てもイケてたぜ? 元がイイから、カメラ映りがイイのは当たり前だけどな!」
「ありがとう……なんだか照れくさいな、皆に見られたなんて」
「そりゃ見るさ! 俺、マスコミって今まで良いイメージなかったけど、
離れたトコに住んでるお前の顔が、寮のサロンに座ってても見れるのは、
あのたくさんのカメラのおかげなんだなって初めて思ったっつーか、
まあ、ちょっとカンシャしたっつーか? ちょっとな」
ハリウッドスターのアルフレッド・ヴィスコンティが、ポリポリと鼻先を掻いている。
「んで、ジョシュア。王子様の暮らしはどーなのよ?
何でも聞いてやるから、俺達にぶっちゃけてみ? マスコミには言わねーからさっ」
赤い瞳は少し俯いた後、改めて友人達を見つめ、実は、と切り出した。
「まだ誰にも言っていないことがあるんだ。学院の皆にしか話せないことだから」
「おっ! そういうのを待ってたんだよ! 言ってみ言ってみ?」
「学院を卒業すると、月桂樹の森を懐かしく思うっていう話は本当だったよ」
「えっ?」
ドロドロした王室の内部事情が聞けると予想していたアルフレッドは拍子抜けした。
「ロレートの大公家には、昔から月桂樹の庭があるんだけど、
島にある木と同じものではないから、葉の色や香りが微妙に違うんだ。
……カーディスも、同じこと思っているのかな」
最後は独り言のようだった。学院の生徒でなければ伝わらない話なので、
このささやかな感想を他の人に言ったことがなかった。それが今、親しい友人達にやっと話せて、
少し胸のつかえが取れたような、すっきりとした気持ちになった。
「今度、カーディス陛下に聞いてみては?」
同学年でひとつ年上のシルヴァンが微笑み掛ける。
「きっとジョシュアと同じように感じていると思いますよ?
彼も僕達と同じマージナルプリンスなんですから」
優しい菫色の瞳に見つめられて、ジョシュアは素直に頷いた。
「うん。そうだね。帰ったら、カーディスに聞いてみようかな」
琥珀の瞳は、心の奥まで伺うように緋色の瞳を覗いていた。
アルフレッドは隣の卒業生に尋ねる。
「シルヴァンは、どこで何してんのか解んなかったけど、元気だったのか?」
「はい、もちろん」
「なら良いけどさ」
「今回は本当に、卒業生の僕達にも声を掛けてくれて、ありがとうございます。
皆さんにまた会えて、僕、とっても嬉しいです。
あっ、明日は皆さんで一緒にアキハバラに行きません?
それから、ハルヤのお母様のお店に行って、本場のアボカドまぐろ丼を食べさせて貰うんですー♪
あとあと! サムライの街のニッコウとキョートとハコダテと、
あっ、それからフクオカに行ってウメガエモチをお土産に買いましょう!」
「よく知ってるね? 梅ヶ枝餅なんて」
「はい。ハルヤのお祖父様と同じ名前だったので」
梅ヶ枝餅とは福岡にある太宰府天満宮の名菓である。
太宰府は、かつて、菅原道真が無実の罪によって流された場所。
道真を哀れんだ老婆が、梅の枝を添えた餅を差し入れたことが、梅ヶ枝餅の始まりだと伝えられている。
「でも、函館から福岡の移動距離、結構遠いと思うけど」
「カイロからトーキョーまでの距離に比べれば、すぐそこですよ♪」
「シルヴァン、エジプトから来たの?」
「あっ、ええ、まあ。あの、あんまり言っちゃいけないことなんで、ご内密に」
本人以外の五人は、それぞれの顔をして、友人の表情を見つめる。
場が少し沈黙して、シルヴァンが困った笑顔を浮かべた。取り繕おうとして、何か言おうとした時。
「あの、さっきから、気になってたんだけど」
眼鏡の奥の瞳が、控えめに言った。
「シルヴァンさ、ちょっと痩せてない?」
「え? そうですか?」
「あ、やっぱそうだよな!? 俺も言おうと思ってたんだよ!」
力強くアルフレッドが同意する。
「ガッコに居た時より、確実に細くなってるぞ、お前!」
「自分では気付きませんでしたが、レッドとハルヤに言われるということは、そうなんでしょうねえ」
「そうなんでしょうねえ、じゃねえよ! ったく、元々痩せてんのに。きっとココも」
アルフレッドの人差し指は、シルヴァンの腹筋にできた溝をつうとなぞった。
「やっぱ、前よりくっきり割れてんな。どんだけ筋トレしてんだよ、お前」
「そんなトコ、触らないで下さいよ、僕、ソコ弱いんですからっ」
「知ってるっつの」
アルフレッドはシルヴァンに覆い被さって、脇腹をくすぐる。
「あんっ、もうレッド、止めて下さいっ、あははっ」
他の四人は苦笑しながら、二人を見守っていた。
「あ、そうだ。ユウタ、ご両親は二階かい?」
ジョショアの言葉に皆が振り向いた。
「それとも出掛けているのかな? あとでも良いんだけど、迷惑でなければご挨拶させて欲しいな」
「えっ、ジョシュアがうちの親に?」
「うん。俺達、##NAME1##とユウタには本当に感謝し切れないほどお世話になってきたし、
君達姉弟のご両親はどんな人なのかなって、実はずっと気になってて」
「あっ! 俺も見たい見たい! 子どもと激似なんだろうけどっ!」
「僕もお話ししたいですー!」
すぐさま、アルフレッドとシルヴァンが賛成した。
「あ、ごめん。今日と明日は居ないんだ。温泉旅行中なんだよ、二人でね」
「わお! ユウタのパパさんとママさん、ラブラブなんですね♪」
「別に、そんなんじゃないんだけど」
身内を褒められると謙遜して否定する。ユウタは日本人特有のリアクションを見せた後、事情を説明した。
「あのね、父さんと母さんには、みんながうちに来ること話したんだよ。
そしたら急に私達は温泉に行ってくるから、みんなで仲良くね、って」
「えっ!? じゃあ俺達、今夜は##NAME1##と同じ家で眠ってイイってことかよ!?」
「や。俺達は、姉貴とは別の部屋で雑魚寝だよ?」
「なんだー、ムダな期待させんなよー」
「##NAME1##のお布団で眠っていいのかなーって、ちょっと期待しちゃいました♪」
「だ、ダメだよ! てゆうか姉貴は布団じゃなくてベッドだし」
「シルヴァン! お前はキケンだから外で寝てろ、外で!」


その一時間程前。
東京都内のゲームセンター。その一角に人だかりが出来ていた。
格闘ゲームのシングルプレイで、ある外国人が新記録を更新し続けているのだ。
また一人、相手のコンピューターを打ち負かし、拍手とどよめきが起こった。
長い髪をひとつに束ねている外国人は、クレーンゲームをプレイ中。
狙いは大きな犬のぬいぐるみらしい。先程から何回も挑戦しているが、一度も成功していない。
彼等から少し離れたところで、金髪の外国人は日本人の友人とジュースを飲んでいた。
「確か、##NAME1##には弟が居るんだよな? 名前は?」
「ユウタだよ。俺はユウくんって呼んでるけど。
小さい頃は、ねーちゃんとユウくんと俺で、よく遊んでたんだ」
「ふーん。その頃から、男慣れはしてたってわけか。それで俺の前でもあの態度なわけね」
「男慣れって。ヘンな言い方しないでよ」
クレーンゲームの失敗記録を樹立そそうな外国人を見兼ねたのか、他の外国人がすっと傍に来た。
青い眼をした無表情の男。彼は長髪男のプレイを暫く見守っていたのだ。
また犬のぬいぐるみが取れなかった男の肩に手を置いて、短く何か言った。
すると、長髪男は場所を譲った。プレイヤーの立ち位置に付いた男はにコインを投入した。
金髪男と日本人は、格闘ゲームを観戦しながら、話を続けている。
「で、子供の頃のお前達は、どんな遊びしてたわけ?」
「もう。リチャード、さっきからねーちゃんのこと聞いてばっかだよ?」
「いけないのか? 何事も事前学習が物を言うんだぜ?
21世紀は高度情報化社会だって、大学でも習ったろ?」
「それは習った気もするけど、ねーちゃんの話と何の関係が」
ケイの肩にリチャードが腕を回す。
「じゃあ、そろそろ行こうか?」
「あー、もう行く? 俺んち」
リチャードはニヤリと笑う。
「の、隣」


To be continued.

色とりどりの王子達3

2009.09.15 (Tue) Category : memo

イギリスの街が、アンティークな街灯に照らされる頃。
寮のサロンにてみんなで格闘ゲームをした後、ユリウスは自室に戻っていた。
机上の本棚はテキストや参考文献などが綺麗に整列している。
その右端にはよく使い込まれた背の低い本が一冊あった。

賑やかな話し声が廊下を通り過ぎていくのが聞こえた。
ユリウスは時計を見る。夕食の時間だった。そろそろ、ダイニングルームへ向かわなくては。
そう思ったところで来客があった。
金色に輝く髪に、澄んだ青い瞳。同性から見ても綺麗な男だ。
いつだって女性に囲まれるような人間なのに。
「なあ、ユリウス。今夜、空いてるか?」
毎度毎度、変わり映えのしない要求だ。
「またですか? よく飽きませんね」
ユリウスが少し嘆息してみせると、リチャードはこう囁いてきた。
「試してみたいテクがあるんだよ。だから今夜、イイだろ?」
「リチャード・マークスにはガールフレンドがたくさん居るのでしょう?
私でなく、彼女達に相手をして貰ったほうが良いのでは?」
周囲には女好きだと思われている男が、
「女の子が相手だと気を遣わなきゃなんないだろ、イロイロとな。
お前なら、そこんトコどーでもいいから、ラクだし?
ま、ぶっちゃけ、子猫ちゃん達はまだ慣れてないから、お前のほうが断然ウマイ」
「誘い文句としては“不可”ランクですね」
「お前よりウマイ奴が居ない、って言ってんのにか?」
「それは君が群を抜いて下手なだけですよ」
「るせーな。じゃ、あとでお前の部屋に行くから」
ピストル型の右手を向けられる。
「先にシャワー浴びとけよ?」
ウインクまでして去っていった。
今の捨て台詞が、ファンの女の子達に向けられたものなら、
ハートを打ち抜かれた彼女達から、さぞ悲鳴に近い歓声が上がったことだろう。
「ウインクの無駄使いだよ、リチャード・マークス」

ユリウスの髪が照明を浴びて、艶やかに光っている。
まだ濡れていた。リチャードの金色の髪も。
ユリウスは、こういう時に電気を消さない主義なのだ。
「な、んで、いつもこうなるんだよ」
「貴方が望んだことでしょう?」
二人の視線は一点に注がれていた。
リチャードのそれは既に赤く色付いている。限界が近いのだ。
「レディではなく、私とのプレイを望んだのは君ですよ、リチャード」
「クソッ……だからって、ユリウス……」
「もうおしまいですか? もう少し耐えられますよね?」
「んなこと言うなら、その手を、離せっ」
ユリウスは綺麗に笑った。
「イヤです」
指の動きが加速していく。
「てめえっ、いつも、いつも……クッ」
リチャードは思わず目を瞑った。
「うわー! また負けたー!」
「全く同じ台詞をアフタヌーンティの時にも聞きましたよ。
よくそんなに負けられますね。そこまでいくと一種の才能ですよ」
「どうすればお前に勝てんだよっ!?」
「そもそも、何故そんなに私に勝ちたいんです?」
「お前がいつも勝つからだろ!?」
「成程。なら、これからも負けるわけにはいかないね」
ユリウスはコントローラーから離れ、リチャードのベッドに腰掛けた。
「後片付け、お願いしますね?」
「あー、はいはい。ボロ負けした俺が喜んでやらせて頂きますよっ」
「そう言えば、さっきの話だけど、日本に行く目的は、テレビゲームとアーケードゲームだけかい?」
「さっき、そう聞こえなかったのか?」
「書いてあったからね、君の顔に。『本当の目的は別にあります』って」
何を思ったか、リチャードは、さっと右手を掲げた。
普段とは違う優雅な所作に、どこか遠くを仰いでいる目付き。
どうやら、役者のスイッチが入ったらしい。いつもより張った低い声。
「愛の前に、立ち塞がる物なんてないんだよ、ジュリエット」
演じているのは、モンタギュー家の息子らしい。
事ある毎に彼が演じてくれるので、ユリウスには今の台詞がどの場面かも解った。
ロミオとジュリエット第二幕第二場。リチャードの好きなジュリエットの台詞がある場面だ。
「僕は愛の翼で、この高い壁だって飛び越えて来たんだ。
キャピュレット家を囲う石の壁だって、僕の愛をはね返すことはできない」
見事な演技を見せた役者に、観客は三回だけ手を合わせた。
「ゲームへの情熱もそうだけど、君のハングリー精神には素直に感服するよ。
迷惑がられる可能性を恐れず、イギリスから、はるばる日本まで会いに行こうとするなんて」
ロミオからリチャードに戻った男が、ゆっくりと振り向いた。
「ケイにはまだ言うなよ? あいつは口が軽そうだからな」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.11 (Fri) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
ここには、世界中から訳ありの子どもが集まる学校がある。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森が窓から見えた。
今、寮のサロンに居る生徒は最高学年の三人。二人は中央のテーブル、一人は隅で読書中だ。
それから、大人が一人。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな?
あっ、そういや外の世界じゃ、インフルエンザが流行ってんだっけ? 日本は平気なのか?」
「日本では大流行してるみたいだよ。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた!」
アルフレッドはキョロキョロする。
「てか、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、アトリエに晩メシ運ばせたりしてるし、朝メシん時、いつもボーっとしてるしさ。あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れるぜ」
「確かに、最近のユウタ見てると、ちょっと心配かも。あ、そうだ。ユウタにこのクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
自分の投資会社は合併し、引き続き経営中だ。
今年、気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』などというふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスターと錬金術師は、子どものような言い合いをしている。
「てめっ、俺のクッキー取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
「君が他のを食べればいいじゃない」
「お前は何様だ! お姫様か、それとも女王様かあー!?」
「何だって?」
こういう時、いつも二人を止めてくれた人も卒業してしまった。
言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのさ。アンリはユウタのお姉さんから電話来るの?」
言い合いが中断する。
琥珀色の鋭い眼光が向けられたが、一瞬で反らされた。
アンリは靴音を響かせて、ハルヤが居るほうのソファに歩いていく。
「あの、アンリ?」
「来ないよ」
ハルヤの隣に腰を下ろした。アルフレッドが笑う。
「なーんだ、お前もかよ。いや、解ってたけどなっ。俺様に電話が来ないんだから、お前に来るはずな」
アンリはアルフレッドの言葉を切った。
「彼女、飽きたんじゃない? 僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
アルフレッドがMAXの声で叫ぶので、ハルヤの肩がビクッと跳ねた。アンリは淡々と話す。
「そんなに驚くこと? 日本に居る誰かと親しくしていても可笑しくないもの」
「な、何言い出してんだよ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないってのか!? んなわけあるかよ!」
「では何故、僕達は#NAME1##に放って置かれるの?」
「それは、だな……カゼ引いてんのかもしんねーし、なんか色々忙しいのかもしんねーし……」
語尾が小さくなる。アンリは冷たく微笑んだ。
「LA LUNA. 『月』は移ろう。いつまでもフルムーンでは居られない」
サロンが、シンと静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、#NAME1##とは、もう話せないのかな」
「なあっ! こっちから会いに行っちまおうぜ! #NAME1##にはナイショでさ!
そんで、会いに行ったこと、喜んで貰えるか、ヤな顔されんのか、この目で確かめてやる!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ!
つーか、いい加減、エネルギー切れ! とにかく会いたいから会ってくる!」
アンリがぼそりと言う。
「単細胞」
「悪かったなっ! どーせ俺は#NAME1##バカですよーだっ! ヘンッ」
アンリはそこでクスリと笑った。
それを隣から見ていたハルヤは、あれ、と思う。
いつもの冷笑よりは幾らか柔らかい表情に見えた気がした。
「ねえ、ハルヤ」
「え、な、なに?」
「君は日本に行かなくていいの? 僕は行くけれど。単細胞を一人で行かせたせいで、先を越されるなんてことがあったら御免だからね」
ハルヤは少し俯いた。
「えっと、俺も行きたいな。一緒に行っていい? レッド」
「ああ、もちろんハルヤはな。アンリは仕方なく、しかたな~く、同行を許可してやろう!」
「……何様?」
「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けてさ、#NAME1##とみんなで楽しもうぜ!」
「えっ? シルヴァンも?」
ハルヤが驚く。
「ああ。イイだろ? 久し振りにデッド・プリンスが全員揃うな! 日本のストリートで復活コンサートでもやるか?」
アンリは呆れていた。
「君、自分がアルフレッド・ヴィスコンティだってこと忘れてる?」
「変装でもしとけばイイじゃん」
「声でバレると言っているの。救いようのない単細胞だね」
「あのさ。来れないんじゃないかな、シルヴァンは」
「なんでだよ? ハルヤ」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
アンリが尋ねると、ハルヤは首を振った。
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞けないし」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
当代のロレート国王に指名され、今や正式な第一王子。
現在は勉強の日々で、国史や国政から現国王がほぼ無視している王室の礼儀作法まで学んでいるらしい。
本人から聞いたのではない。
ハルヤはその情報を新聞や雑誌で知ったのだ。この前まで、このサロンに居た人を新聞色の写真で見るのは、不思議な気分だった。
「ジョシュアなら来れるんじゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから、暇にしてるよ」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報が耳に入ってくるだけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.10 (Thu) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
ここには、世界中から訳ありの子どもが集まる学校がある。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森が窓から見えた。
今、寮のサロンに居る生徒は最高学年の三人。二人は中央のテーブル、一人は隅で読書中だ。
それから、大人が一人。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな?
あっ、そういや外の世界じゃ、インフルエンザが流行ってんだっけ? 日本は平気なのか?」
「日本では大流行してるみたいだよ。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた!」
アルフレッドはキョロキョロする。
「てか、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、アトリエに晩メシ運ばせたりしてるし、朝メシん時、いつもボーっとしてるしさ。あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れるぜ」
「確かに、最近のユウタ見てると、ちょっと心配かも。あ、そうだ。ユウタにこのクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
自分の投資会社は合併し、引き続き経営中だ。
今年、気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』などというふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスターと錬金術師は、子どものような言い合いをしている。
「てめっ、俺のクッキー取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
「君が他のを食べればいいじゃない」
「お前は何様だ! お姫様か、それとも女王様かあー!?」
「何だって?」
こういう時、三か月前まではジョシュアが二人を止めてくれた。
けれど、彼も卒業してしまい、現在は正式な第一王子としてロレート公国に居る。
アルフレッドとアンリの言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのさ。アンリはユウタのお姉さんから電話来るの?」
言い合いが中断する。
琥珀色の鋭い眼光が向けられたが、一瞬で反らされた。
アンリは靴音を響かせて、ハルヤが居るほうのソファに歩いていく。
「あの、アンリ?」
「来ないよ」
ハルヤの隣に腰を下ろした。アルフレッドが笑う。
「なーんだ、お前もかよ。いや、解ってたけどなっ。俺様に電話が来ないんだから、お前に来るはずな」
アンリはアルフレッドの言葉を切った。
「彼女、飽きたんじゃない? 僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
アルフレッドがMAXの声で叫ぶので、ハルヤの肩がビクッと跳ねた。アンリは淡々と話す。
「そんなに驚くこと? 彼女は日本に住んでいるんだし、日本の男と親しくしていると考えるほうが自然でしょう?」
「な、何言い出してんだよ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないってのか!? んなわけあるかよ!」
「では何故、僕達は彼女に放って置かれてるの?」
「それは、だな……風邪引いてんのかもしんねーし、なんか色々忙しいのかもしんねーし……」
語尾が小さくなる。アンリは冷たく微笑んだ。
「LA LUNA. 『月』は移ろう。いつまでもフルムーンでは居られない」
サロンが、シンと静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、お姉さんとは、もう話せないのかな」
「なあっ! こっちから会いに行っちまおうぜ! #NAME1##にはナイショでさ!
そんで、会いに行ったこと、喜んで貰えるか、ヤな顔されんのか、この目で確かめてやる!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ!
つーか、いい加減、エネルギー切れ! とにかく会いたいから会ってくる!」
アンリがぼそりと言う。
「単細胞」
「わ・る・かったなっ! どーせ俺は#NAME1##バカですよーだっ! ヘンッ」
アンリはそこでクスリと笑った。
それを隣から見ていたハルヤは、あれ、と思う。
いつもの冷笑よりは幾らか柔らかい表情に見えた気がした。
「ねえ、ハルヤ」
「え、な、なに?」
「君は日本に行かなくていいの? 僕は行くけれど。単細胞を一人で行かせたせいで、先を越されるなんてことがあったら御免だからね」
ハルヤは少し俯いた。
「えっと、俺も行きたいな。一緒に行っていい? レッド」
「ああ、もちろんハルヤはな。アンリは仕方なく、しかたな~く、同行を許可してやろう!」
「……何様?」
「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けてさ、#NAME1##とみんなで楽しもうぜ!」
「えっ? シルヴァンも?」
ハルヤが驚く。
「ああ。イイだろ? 久し振りにデッド・プリンスが全員揃うな! 日本のストリートで復活コンサートでもやるか?」
アンリは呆れていた。
「君、自分がアルフレッド・ヴィスコンティだってこと忘れてる?」
「変装でもしとけばイイじゃん」
「声でバレると言っているの。救いようのない単細胞だね」
「来れないかもしれないよ、シルヴァンは」
「なんでだよ? ハルヤ」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
アンリが尋ねると、ハルヤは首を振った。
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞けないし」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
当代のロレート国王に指名され、今や正式な第一王子。
現在は勉強の日々で、国史や国政から現国王がほぼ無視している王室の礼儀作法まで学んでいるらしい。
本人から聞いたのではない。
ハルヤはその情報を新聞や雑誌で知ったのだ。この前まで、このサロンに居た人を新聞色の写真で見るのは、不思議な気分だった。
「ジョシュアなら来れるんじゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから、暇にしてるよ」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報が耳に入ってくるだけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.10 (Thu) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
ここには、世界中から訳ありの子どもが集まる学校がある。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森が窓から見えた。
今、寮のサロンに居る生徒は最高学年の三人。二人は中央のテーブル、一人は隅で読書中だ。
それから、大人が一人。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな?
あっ、そういや外の世界じゃ、インフルエンザが流行ってんだっけ? 日本は平気なのか?」
「日本では大流行してるみたいだよ。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた!」
アルフレッドはキョロキョロする。
「てか、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、アトリエに晩メシ運ばせたりしてるし、朝メシん時、いつもボーっとしてるしさ。あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れるぜ」
「うん。最近のユウタ見てると、ちょっと心配だよね。あ、そうだ。ユウタにこのクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
自分の投資会社は合併し、引き続き経営中だ。
今年、気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』などというふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスターと錬金術師は、子どものような言い合いをしている。
「てめっ、俺のクッキー取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
「君が他のを食べればいいじゃない」
「お前は何様だ! お姫様か、それとも女王様かあー!?」
「何だって?」
こういう時、三か月前まではジョシュアが二人を止めてくれた。
けれど、彼も卒業してしまい、現在は正式な第一王子としてロレート公国に居る。
アルフレッドとアンリの言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのさ。アンリはユウタのお姉さんから電話来るの?」
言い合いが中断する。
琥珀色の鋭い眼光が向けられたが、一瞬で反らされた。
アンリは靴音を響かせて、ハルヤが居るほうのソファに歩いていく。
「あの、アンリ?」
「来ないよ」
ハルヤの隣に腰を下ろした。アルフレッドが笑う。
「なーんだ、お前もかよ。いや、解ってたけどなっ。俺様に電話が来ないんだから、お前に来るはずな」
アンリはアルフレッドの言葉を切った。
「彼女、飽きたんじゃない? 僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
アルフレッドがMAXの声で叫ぶので、ハルヤの肩がビクッと跳ねた。アンリは淡々と話す。
「そんなに驚くこと? 彼女は日本に住んでいるんだし、日本の男と親しくしていると考えるほうが自然でしょう?」
「な、何言い出してんだよ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないってのか!? んなわけあるかよ!」
「では何故、僕達は彼女に放って置かれてるの?」
「それは、だな……風邪引いてんのかもしんねーし、なんか色々忙しいのかもしんねーし……」
語尾が小さくなる。アンリは冷たく微笑んだ。
「LA LUNA. 『月』は移ろう。いつまでもフルムーンでは居られない」
サロンが、シンと静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、お姉さんとは、もう話せないのかな」
「なあっ! こっちから会いに行っちまおうぜ! #NAME1##にはナイショでさ!
そんで、会いに行ったこと、喜んで貰えるか、ヤな顔されんのか、この目で確かめてやる!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ!
つーか、いい加減、エネルギー切れ! とにかく会いたいから会ってくる!」
アンリがぼそりと言う。
「単細胞」
「わ・る・かったなっ! どーせ俺は#NAME1##バカですよーだっ! ヘンッ」
アンリはそこでクスリと笑った。
それを隣から見ていたハルヤは、あれ、と思う。
いつもの冷笑よりは幾らか柔らかい表情に見えた気がした。
「ねえ、ハルヤ」
「え、な、なに?」
「君は日本に行かなくていいの? 僕は行くけれど。単細胞を一人で行かせたせいで、先を越されるなんてことがあったら御免だからね」
ハルヤは少し俯いた。
「えっと、俺も行きたいな。一緒に行っていい? レッド」
「ああ、もちろんハルヤはな。アンリは仕方なく、しかたな~く、同行を許可してやろう!」
「……何様?」
「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けてさ、#NAME1##とみんなで楽しもうぜ!」
「えっ? シルヴァンも?」
ハルヤが驚く。
「ああ。イイだろ? 久し振りにデッド・プリンスが全員揃うな! 日本のストリートで復活コンサートでもやるか?」
アンリは呆れていた。
「君、自分がアルフレッド・ヴィスコンティだってこと忘れてる?」
「変装でもしとけばイイじゃん」
「声でバレると言っているの。救いようのない単細胞だね」
「来れないかもしれないよ、シルヴァンは」
「なんでだよ? ハルヤ」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
アンリが尋ねると、ハルヤは首を振った。
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞けないし」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
当代のロレート国王に指名され、今や正式な第一王子。
現在は勉強の日々で、国史や国政から現国王がほぼ無視している王室の礼儀作法まで学んでいるらしい。
本人から聞いたのではない。
ハルヤはその情報を新聞や雑誌で知ったのだ。この前まで、このサロンに居た人を新聞色の写真で見るのは、不思議な気分だった。
「ジョシュアなら来れるんじゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから、暇にしてるよ」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報が耳に入ってくるだけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.10 (Thu) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
ここには、世界中から訳ありの子どもが集まる学校がある。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森が窓から見えた。
今、寮のサロンに居る生徒は最高学年の三人。二人は中央のテーブル、一人は隅で読書中だ。
それから、大人が一人。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな?
あっ、そういや外の世界じゃ、インフルエンザが流行ってんだっけ? 日本は平気なのか?」
「日本では大流行してるみたいだよ。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた!」
アルフレッドはキョロキョロする。
「てか、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、アトリエに晩メシ運ばせたりしてるし、朝メシん時、いつもボーっとしてるしさ。あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れるぜ」
「うん。最近のユウタ見てると、ちょっと心配だよね。あ、そうだ。ユウタにこのクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
自分の投資会社は合併し、引き続き経営中だ。
今年、気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』などというふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスターと錬金術師は、子どものような言い合いをしている。
「てめっ、俺のクッキー取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
「君が他のを食べればいいじゃない」
「お前は何様だ! お姫様か、それとも女王様かあー!?」
「何だって?」
こういう時、三か月前まではジョシュアが二人を止めてくれた。
けれど、彼も卒業してしまい、現在は正式な第一王子としてロレート公国に居る。
アルフレッドとアンリの言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのさ。アンリはユウタのお姉さんから電話来るの?」
言い合いが中断する。
琥珀色の鋭い眼光が向けられたが、一瞬で反らされた。
アンリは靴音を響かせて、ハルヤが居るほうのソファに歩いていく。
「あの、アンリ?」
「来ないよ」
ハルヤの隣に腰を下ろした。アルフレッドが笑う。
「なーんだ、お前もかよ。いや、解ってたけどなっ。俺様に電話が来ないんだから、お前に来るはずな」
アンリはアルフレッドの言葉を切った。
「彼女、飽きたんじゃない? 僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
アルフレッドがMAXの声で叫ぶので、ハルヤの肩がビクッと跳ねた。アンリは淡々と話す。
「そんなに驚くこと? 彼女は日本に住んでいるんだし、日本の男と親しくしていると考えるほうが自然でしょう?」
「な、何言い出してんだよ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないってのか!? んなわけあるかよ!」
「では何故、僕達は彼女に放って置かれてるの?」
「それは、だな……風邪引いてんのかもしんねーし、なんか色々忙しいのかもしんねーし……」
語尾が小さくなる。アンリは冷たく微笑んだ。
「LA LUNA. 『月』は移ろう。いつまでもフルムーンでは居られない」
サロンが、シンと静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、お姉さんとは、もう話せないのかな」
「なあっ! こっちから会いに行っちまおうぜ! #NAME1##にはナイショでさ!
そんで、会いに行ったこと、喜んで貰えるか、ヤな顔されんのか、この目で確かめてやる!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ!
つーか、いい加減、エネルギー切れ! とにかく会いたいから会ってくる!」
アンリがぼそりと言う。
「単細胞」
「わ・る・かったなっ! どーせ俺は#NAME1##バカですよーだっ! ヘンッ」
アンリはそこでクスリと笑った。
それを隣から見ていたハルヤは、あれ、と思う。
いつもの冷笑よりは幾らか柔らかい表情に見えた気がした。
「ねえ、ハルヤ」
「え、な、なに?」
「君は日本に行かなくていいの? 僕は行くけれど。単細胞を一人で行かせたせいで、先を越されるなんてことがあったら御免だからね」
ハルヤは少し俯いた。
「えっと、俺も行きたいな。一緒に行っていい? レッド」
「ああ、もちろんハルヤはな。アンリは仕方なく、しかたな~く、同行を許可してやろう!」
「……何様?」
「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けてさ、#NAME1##とみんなで楽しもうぜ!」
「えっ? シルヴァンも?」
ハルヤが驚く。
「ああ。イイだろ? 久し振りにデッド・プリンスが全員揃うな! 日本のストリートで復活コンサートでもやるか?」
アンリは呆れていた。
「君、自分がアルフレッド・ヴィスコンティだってこと忘れてる?」
「変装でもしとけばイイじゃん」
「声でバレると言っているの。救いようのない単細胞だね」
「来れないかもしれないよ、シルヴァンは」
「なんでだよ? ハルヤ」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
アンリが尋ねると、ハルヤは首を振った。
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞けないし」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
当代のロレート国王に指名され、今や正式な第一王子。
現在は勉強の日々で、国史や国政から現国王がほぼ無視している王室の礼儀作法まで学んでいるらしい。
本人から聞いたのではない。
ハルヤはその情報を新聞や雑誌で知ったのだ。この前まで、このサロンに居た人を新聞色の写真で見るのは、不思議な気分だった。
「ジョシュアなら来れるんじゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから、暇にしてるよ」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報が耳に入ってくるだけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.10 (Thu) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
ここには、世界中から訳ありの子どもが集まる学校がある。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森が窓から見えた。
今、寮のサロンに居る生徒は最高学年の三人。二人は中央のテーブル、一人は隅で読書中だ。
それから、大人が一人。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな?
あっ、そういや外の世界じゃ、インフルエンザが流行ってんだっけ? 日本は平気なのか?」
「日本では大流行してるみたいだよ。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた!」
アルフレッドはキョロキョロする。
「てか、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、メシの時間にも遅れるし、アトリエにメシ運ばせたりしてんだろ? あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れんぞ」
「確かに、ちょっと心配かも。あ、そうだ。ユウタに、このクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、同じく高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
自分の投資会社は合併し、引き続き経営中だ。
今年、気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』などというふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスターと錬金術師は、子どものような言い合いをしている。
「てめっ、俺のクッキー取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
「君が他のを食べればいいじゃない」
「お前は何様だ! お姫様か、それとも女王様かあー!?」
「何だって?」
こういう時、三か月前まではジョシュアが二人を止めてくれた。
けれど、彼も卒業してしまい、現在は正式な第一王子としてロレート公国に居る。
アルフレッドとアンリの言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのさ。アンリはユウタのお姉さんから電話来るの?」
言い合いが中断する。
琥珀色の鋭い眼光が向けられたが、一瞬で反らされた。
アンリは靴音を響かせて、ハルヤが居るほうのソファに歩いていく。
「あの、アンリ?」
「来ないよ」
ハルヤの隣に腰を下ろした。アルフレッドが笑う。
「なーんだ、お前もかよ。いや、解ってたけどなっ。俺様に電話が来ないんだから、お前に来るはずな」
アンリはアルフレッドの言葉を切った。
「彼女、飽きたんじゃない? 僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
アルフレッドがMAXの声で叫ぶので、ハルヤの肩がビクッと跳ねた。アンリは淡々と話す。
「そんなに驚くこと? 彼女は日本に住んでいるんだし、日本の男と親しくしていると考えるほうが自然でしょう?」
「な、何言い出してんだよ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないってのか!? んなわけあるかよ!」
「では何故、僕達は彼女に放って置かれてるの?」
「それは、だな……風邪引いてんのかもしんねーし、なんか色々忙しいのかもしんねーし……」
語尾が小さくなる。アンリは冷たく微笑んだ。
「LA LUNA. 『月』は移り気、いつまでもフルムーンでは居られない」
サロンが、シンと静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、お姉さんとは、もう話せないのかな」
「なあっ! こっちから会いに行っちまおうぜ! #NAME1##にはナイショでさ!
そんで、会いに行ったこと、喜んで貰えるか、ヤな顔されんのか、この目で確かめてやる!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ!
つーか、いい加減、エネルギー切れ! とにかく会いたいから会ってくる!」
アンリがぼそりと言う。
「単細胞」
「わ・る・かったなっ! どーせ俺は#NAME1##バカですよーだっ! ヘンッ」
アンリはそこでクスリと笑った。
それを隣から見ていたハルヤは、あれ、と思う。
いつもの冷笑よりは幾らか柔らかい表情に見えた気がした。
「ねえ、ハルヤ」
「え、な、なに?」
「君は日本に行かなくていいの? 僕は行くけれど。単細胞を一人で行かせたせいで、先を越されるなんてことがあったら御免だからね」
ハルヤは少し俯いた。
「えっと、俺も行きたいな。一緒に行っていい? レッド」
「ああ、もちろんハルヤはな。アンリは仕方なく、しかたな~く、同行を許可してやろう!」
「……何様?」
「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けてさ、#NAME1##とみんなで楽しもうぜ!」
「えっ? シルヴァンも?」
ハルヤが驚く。
「ああ。イイだろ? 久し振りにデッド・プリンスが全員揃うな! 日本のストリートで復活コンサートでもやるか?」
アンリは呆れていた。
「君、自分がアルフレッド・ヴィスコンティだってこと忘れてる?」
「変装でもしとけばイイじゃん」
「声でバレると言っているの。救いようのない単細胞だね」
「来れないかもしれないよ、シルヴァンは」
「なんでだよ? ハルヤ」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
アンリが尋ねると、ハルヤは首を振った。
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞けないし」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
当代のロレート国王に指名され、今や正式な第一王子。
現在は勉強の日々で、国史や国政から現国王がほぼ無視している王室の礼儀作法まで学んでいるらしい。
本人から聞いたのではない。
ハルヤはその情報を新聞や雑誌で知ったのだ。この前まで、このサロンに居た人を新聞色の写真で見るのは、不思議な気分だった。
「ジョシュアなら来れるんじゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから、暇にしてるよ」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報が耳に入ってくるだけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.09 (Wed) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
地図に載らない孤島には、世界中から訳ありの子どもが集まる学校があった。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森が窓から見えた。
今、寮のサロンに居る生徒は最高学年の三人。二人は中央のテーブル、一人は隅で読書中だ。
それから、大人が一人。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな?
あっ、そういや外の世界じゃ、インフルエンザが流行ってんだっけ? 日本は平気なのか?」
「日本では大流行してるみたいだよ。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた!」
アルフレッドはキョロキョロする。
「てか、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、メシの時間にも遅れるし、アトリエにメシ運ばせたりしてんだろ? あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れんぞ」
「確かに、ちょっと心配かも。あ、そうだ。ユウタに、このクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、同じく高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
また、以前から立ち上げていた投資会社も合併し、引き続き経営中だ。
気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』なとどいうふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスターと錬金術師は、子どものような言い合いをしている。
「てめっ、俺のクッキー取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
「君が他のを食べればいいじゃない」
「はあー!?」
こういう時、三か月前まではジョシュアが二人を止めてくれた。
けれど、彼も卒業してしまい、現在は正式な第一王子としてロレート公国に居る。
アルフレッドとアンリの言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのー。アンリはさ、ユウタのお姉さんから電話来るの?」
言い合いが中断される。アンリの琥珀色の瞳が黒い瞳にちらりと向けられて、すぐ反らされた。
「来ないよ?」ハルヤの隣に座る。「彼女、飽きたんじゃない? 僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
アルフレッドがMAXの声で叫ぶので、ハルヤの肩がビクッと跳ねた。アンリは淡々と話す。
「そんなに驚くこと? 彼女は日本に住んでいるんだし、誰か、日本の男と親しくしているんじゃない?」
「な、なな、何言い出すんだ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないってのかよ!?」
「では何故、僕達は彼女に放置されてるの?」
「グッ」
アンリが冷たく微笑む。
「LA LUNA. 『月』は移り気。満月は、その姿を刹那の間しか保てない」
サロンが、シンと静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、お姉さんとは、もう話せないのかな」
「なあっ! #NAME1##から電話が掛かってこないなら、こっちから会いに行っちまおうぜ!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ! あいつに会って確かめるんだ!」
「単細胞」
「悪かったな! どーせ俺はバカですよ!」
「ハルヤ、君は行かなくていいの? 僕は行くけど。単細胞一人に先を越されるなんて御免だからね」
「えっと、俺も行きたいな」

「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けて、みんなで久し振りに集まろうぜ!」
「シルヴァンも? ダメかもしれないよ?」
「なんで?」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞いてないんだ」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
「平気じゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報を耳にしただけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達2

2009.09.09 (Wed) Category : memo

同じ頃、世界のどこかに在る小さな島。
地図に載らない孤島には、世界中から訳ありの子どもが集まる学校があった。
聖アルフォンソ学院、その生徒達は、マージナルプリンスと呼ばれた。

秋風が月桂樹を撫でていく。さわさわと揺れる森がサロンの窓から見えた。
「本日は、クッキーをご用意致しました」
ウーティス寮サロンも放課後のティタイムだった。
コック服が似合う寮専属シェフが、今日のおやつを紹介していた。
「茶色のクッキーがコーヒー味、紅茶の茶葉が入っているものがアッサムティ、
そして、緑の茶葉がグリーンティのクッキーでございます。どうぞ、お試し下さいませ」
「へー、相変わらず凝ってんなー、カミーユ。俺はコーヒーのっ」
早速、手を伸ばしたのは、今年度から高等部三年生になったアルフレッド・ヴィスコンティ。
5歳でデビューした天才子役、現在はハリウッドスターだ。
一時休業宣言をしてこの学院に入ったアルフレッドは、密かに一時復帰した。
尊敬する監督から映画のオファーを受け、夏期休暇の間にまとめ撮りしたのである。
映画の公開は来秋。公にされてはいないが、監督の意向でアルフレッドの卒業を待って、この時期になったのだ。
来年は学院の卒業と同時に、舞台挨拶、公開キャンペーンで世界中を回ることが決まっていた。
だか、それも来年の話。
学生生活を謳歌中のアルフレッドは、コーヒー味のクッキーをほうばっていた。
「うん、うまいぜ、カミーユ」
シェフのカミーユ・ルブランは至福の笑みだ。
「ありがとうございます、アルフレッド様。それでは失礼致します」
丁寧に頭を下げて、退室した。
シェフの姿が消えると、アルフレッドは「はい、カット」と声を掛けられたかのように、ばたりとソファに凭れかかった。
向かいのソファに居る眼鏡の寮生がキョトンとして、
「どうしたの、レッド」
「あーあ。カミーユのクッキーって美味いよなー、サクサクしてるし、形揃ってるしー」
アルフレッドの言わんとしていることが解る眼鏡の寮生はオリエンタルスマイルを浮かべた。
彼は高等部三年のハルヤ・コバヤシ。日本出身だ。アルフレッドとはギターとベースのバンドを組んでいる。
夏まではドラムが居たのだが、卒業してしまった。現在もその席は空いたままだ。
「また#NAME1##のクッキー食べてえなー。最近は全然送ってくんねーし」
アルフレッドの呟いた名前に、ハルヤの黒い瞳がパチリと瞬いた。
#NAME1##。ユウタの姉だ。
ユウタもハルヤと同じ日本出身。訳ありの学院では珍しく、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った人間だ。
ウーティス寮の生徒は、ユウタの携帯電話を通して、ユウタの姉とよく話していた。
いつしか、彼女と彼等は他愛もない話から、心の奥底に根付いた悩みまで、何でも話せる間柄になっていた。
そんな人が今まで居なかった、訳ありの王子達にとって、彼女は特別な存在になっていった。
しかし、恐ろしく鈍感な彼女に、彼等の想いはなかなか届かず、曖昧だが心地良い関係が今も続いていた。
「#NAME1##のクッキーってさ、焦げてガッチガチで、何の形か解んなくて、マジ、サイコーだったよな!」
アルフレッドの笑顔が示すように、その言葉に悪意はない。
彼の母親であり名女優のグロリア・ヴィスコンティは料理が苦手だったのだ。
その為、アルフレッドにとっては一流シェフによる完璧なクッキーより、
#NAME1##が作った完璧とはとても言えないクッキーのほうが心くすぐられるのだった。
シェフの作る料理に飽きているのは、アルフレッドだけではない。
「そうだね。俺もお姉さんのクッキーのほうが好き」
ハルヤは緑茶色のクッキーを見ながら、
「カミーユのも美味しいんだけど、ね」
「つーかさ。最近はクッキーどころか、##NAME1##から電話も来ねーんだけど。
俺だけ? ハルヤは最近、##NAME1##と話したか?」
クッキーで口が塞がっていたハルヤは、首を横に振った。
「ハルヤもか。#NAME1##、どうしちまったんだ? 風邪でも引いてんのかな? あっ、そういやインフルエンザが流行っんだっけ?」
「ああ、そう言えば。兄様も心配して、そっちは流行ってないのかってハガキくれたんだ。日本では大流行してるんだって」
「マジかよ! ヤベッ、すげー心配になってきた。ったく、ユウタはどこに居んだよ!」
「アトリエで絵を描いてるんじゃないかな、多分。展覧会に間に合わないかもって言ってたから」
ユウタは絵画の特別授業を受講して以来、すっかりハマったようだ。
教授に勧められて、来月、島の美術館が開催する小さな展覧会に参加することになっている。
目下、それに出展する絵を製作中で、放課後もサロンで顔を見ない日が多くなっていた。
「ユウタのヤツ、最近、メシの時間にも遅れたり、アトリエに運ばせたりしてるしな。あんなんじゃ、展覧会までにブッ倒れんぞ」
「確かに、ちょっと心配かも。あ、そうだ。ユウタに、このクッキー差し入れに行ってみる?」
「おっ、イイじゃん! その前にもう一枚食べてからっ」
ハルヤは吹き出した。
「レッド、なんだかんだ言って、カミーユのクッキー、結構食べてるじゃん?」
「アタマ使った後はハラ減るんだよ!」
「そんなに使ってな……いてっ」
アルフレッドは紅茶のクッキーを取る。
口に運ぼうとした時、すっと抜き取られた。
後ろでサクサクと音が聞こえる。
クッキーを食していたのは、同じく高等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
錬金術師サン・ジェルマン伯爵家の末裔であり、昨年、父を亡くした後は、家業を継いでいる。
また、以前から立ち上げていた投資会社も合併し、引き続き経営中だ。
気まぐれに取材を受けた経済誌では、『若干17歳の美しき錬金術師』なとどいうふざけた文字が踊っていた。
その家柄と実績、また美貌が世界中に注目され、仕事が忙しくなってしまった。
在学中ということもあり、不必要な取引は大胆に断っているが、本人は取材を受けた気まぐれを後悔しているらしい。
ハリウッドスター

「てめっ、俺の取んなよ、アンリ!」
「僕が食べようとしてたのを、君が取るんだもの」
「他にもいっぱいあんだろ!?」
ハルヤは困り顔になる。
こういう時、昨年度まではジョシュアが二人を止めてくれた。
けれど、彼も卒業してしまい、現在は正式な第一王子としてロレート公国に居る。
アルフレッドとアンリの言い合いが悪化する前に、ハルヤは話題の転換を試みた。
「あ、あのー。アンリはさ、ユウタのお姉さんから電話来るの?」
「来ないよ。飽きたんじゃない、僕達に」
「ぬぁにぃー!?」
「彼女は日本に住んでいるんだし、日本の男と親しくしているのかも」
「な、なな、何言い出すんだ、お前はっ! あいつがもう俺達に興味ないわけないだろ!?」
「では何故、僕達は彼女に放置されてるの?」
「グッ」
アンリが冷たい微笑む。
「LA LUNA. 『月』は移り気。満月は刹那、いつか欠ける時が来る」
シン、と静まり返る。ハルヤはぽつりと零した。
「俺達、お姉さんとは、もう話せないのかな」
「なあっ! #NAME1##から電話が掛かってこないなら、こっちから会いに行っちまおうぜ!」
「彼女と会うことで、最後の審判が下されるとしても?」
「当たり前だ! お前らが行かないんなら、俺は一人でも日本に行くぞ! あいつに会って確かめるんだ!」
「単細胞」
「悪かったな! どーせ俺はバカですよ!」
「ハルヤ、君は行かなくていいの? 僕は行くけど。単細胞一人に先を越されるなんて御免だからね」
「えっと、俺も行きたいな」

「じゃあ、ついでにジョシュアとシルヴァンにも声掛けて、みんなで久し振りに集まろうぜ!」
「シルヴァンも? ダメかもしれないよ?」
「なんで?」
「ほら、シルヴァンはさ、最近、世界のあちこち行ってて、なんか忙しそうだし」
「そーなのか?」
「写真付きのメールが、学校のパソコンに時々送られてくるんだ。
ほら、『ピラミッドと僕♪』とか『ミステリーサークルと僕♪』みたいなメール、来てない?」
「ゼンゼン」
「あれ? そうだったんだ。てっきりレッドにも送ってるのかと思ってた」
「ねえ。シルヴァンって、卒業後、世界の不思議ツアーでもしているの?」
「わかんない。『僕が今何をやっているのかは誰にも話せないんです、ごめんなさい』って言われてるから、詳しいことは聞いてないんだ」
「ふうん。そう。大体解った」
「えっ?」
「何が解ったって言うんだよ、アンリ」
「彼が言った通りさ。『誰にも話せないこと』をやっているんだよ、彼は。そういう世界に居るんだ」
アルフレッドとハルヤは顔を見合わせて、首を傾げた。
「シルヴァンのメールアドレスが解るなら、シルヴァンへの連絡係は君だね、ハルヤ」
アンリにそう言われて、ハルヤは頷いた。
「あ、うん。解った」
「じゃあさ、ジョシュアにはどうやって連絡する?」
「てゆうか、ジョシュア、来てくれるかなあ? 今、王子様だし、本物の」
「平気じゃない? 今の時期なら、大した行事もない筈だから」
「おー? ロレートについて詳しいじゃん、アンリ」
「たまたま、そういう情報を耳にしただけ」
「じゃあさ、ロレート王室の広報にでも電話してみっか!
俺が掛けてビックリさせてやってもいいぜ! ジョシュア王子を出せ! さもなくば」
「捕まるよ。そういう冗談、通じない国だから。ジョシュアのアドレスなら僕が知ってる」
「へえー。長い付き合いは今も続いてるんだ?」
「ハルヤと同じだよ。向こうが勝手に送り付けてくるだけ」


fin

色とりどりの王子達1

2009.09.02 (Wed) Category : memo

シェスカベリー大学のレディクレイヴズハウス。
放課後、寮生達はサロンに集まって、テレビゲームをして遊んでいた。
今プレイしているのは格闘ゲーム。2対2のタッグバトルのようだ。
それぞれが操作しているキャラクタは、チームカラーのバンダナや帽子を身に付けている。
テレビの右側に並んで座っているリチャードとケイがチーム・レッド。
左側に居るユリウスとシノブがチーム・ブルー。
「うわー! また負けた―!」
リチャードの雄叫びと共に、画面には勝者、チーム・ブルーの名前が表示された。
勝利チームは余裕の笑みである。
「お疲れ様でした、シノブ。また私達の連勝記録が伸びましたね?」
「うん。まあ、リチャード相手に僕達が負けるわけないから」
リチャードがケイの肩を揺する。
「なんで俺達いつも負けんだよー。もっと俺をフォローしてくれよ、ケイー」
シノブがリチャードを睨む。
「お前が自分勝手に動くからだろ? ケイは悪くない」
「そうですね。リチャードの個人プレイが敗因だと思いますよ?」
ユリウスはニッコリと微笑む。
「君は自分一人で目立とうとするクセがありますから、何かとね」
「同感」とシノブ。
「クソー。おい、アレックス! 次はお前と組む! 俺とお前で、この二人、叩きのめそうぜ!」
コーヒーを飲んでいたアレックスが一言だけ呟く。
「興味ない」
みんなは同時に笑った。ユリウスはテレビの前から離れる。
「私も興味ないです、リチャードに」
シノブとケイも立ち上がった。
「僕もない」
「おーれもっ」
「あっ、おい、お前ら! 勝負はまだついてなっ」
「さて、ゲームは終わりにして、ティタイムにしましょうか」
「賛成」

寮生達はひと息吐く。
今日の紅茶は、北インド産の秋摘みダージリンだ。
「あっ、そうだ! 今度の休暇さ、ケイんちに招待してくれよ!」
リチャードがそう言うと、ケイは紅茶を吹きそうになっていた。
咳き込んだケイに、大丈夫か、とシノブが声を掛けている。
「だ、大丈夫。でも、なんでリチャードが俺んちに? みんなの家と違って、俺んち、ちょーフツーだから、何にも面白くないと思うけど?」
ガバッと肩を組まれた。
「何言ってんだよ。お前んちにはゲームがたくさんあるんだろ?」
「あ、それなら、あるけど」
「日本のゲームソフトはハイクオリティだから好きなんだよ。
強化合宿ってヤツだよ、強化合宿。んで、今度こそ俺が勝つ!」
「えー。ゲームが目的でうち来るのー?」
アレックスがふらりとこちらに来た。
「俺、日本には、興味ある」
「おっ! なんだよ、アレックス。じゃあ、お前も一緒に来るか!」
「行く」
「おっしゃ! な、ユリウスとシノブも来るだろ?」
振られた二人は顔を見合わせた。
「日本、ですか。もちろん、行きたい気持ちはありますけど」
ユリウスの後をシノブが続ける。
「僕達四人揃ってケイの家に行ったら、迷惑じゃないのか?」
「何が? だって、ケイんちではゲームするだけだぜ?
ベッドが足りないなら、どっかのホテルに泊まればいいんだし、
食事だって、その辺のパブに行けば、問題ないだろ?」
シノブの翠色の瞳がパチリと瞬く。
「ほんとに、ゲームがしたいだけなんだ」
「ああ」
「日本って、他に見るところ、たくさんあると思うけど」
「あっ。そうだよなっ! せっかく日本まで行くんだから」
「そうだろう? 歴史ある建造物とか」
「ゲームセンター行って、日本のアーケードゲームもチェックしなきゃな!」


To be continued.

ニック1

2009.08.25 (Tue) Category : memo


■リチャードルート4ベース


中世ヨーロッパの面影が残る街、ロンドン。
その郊外に俺が働いてる店がある。
店員のユニホームはコーヒー色のシンプルなエプロン。
どこにでもあるようなフツーのパブで、今日も夜が始まる。
ロンドンの空が薄っすらと暮れ始める17時。『ロイヤルアームズ』の開店だ。
俺の仕事はホール全般。立ち位置はカウンター。
ここに入ったばっかの時は、もっとヒマな店だったんだけど、
ちょっとずつお客さんが増えてきた気がする。
今日も開店から一時間後で4割くらい埋まってる。
ピークタイムが来るまでは、のんびり仕事ができそうだ。
女の子が二人やってきた。どっちもカワイイ。大学生かな。
けど、入ってくるなり、店内をキョロキョロしてる。ヤな予感。
「居ないね、リチャード」
「うん。今日は来ないのかなあ」
やっぱりね。
女の子達を寂しがらせている男は、リチャード・マークス。
うちの常連客で、近くのシェスカベリー大に通う学生。
これがめちゃくちゃイケメンで、あいつ目当てでお客さんが来ちゃうくらいなんだ。
さっきの子達もリチャードファンなんだろう。ほら、「店員さんに聞いてみようよ」なんて話してる。
俺に聞かれても、知るわけないのに。
カンカンと高いヒールの音が近付いてきた。
「あの~」
あいつの為なのかなあ、この谷間も。
「リチャード、いつ来るか解りますかあ?」
「すみません、そこまでは俺も。ただ、もう大学の授業は終わってる時間ですから、そろそろ来ても良さそうですけどね」
「そうだよねー」
「もう少し待ってみて、リチャードが来なかったら、今日はもう帰る?」
「うん。リチャードに会えると思って、赤いキャミ着てきたのにな」
「私もー。リチャードが好きそうだから、この黒のボレロ、買ってみたんだー」
「あー、やっぱり、リチャードの為だったんだ? この前、赤と黒が好きって言ってたもんね」
「へえー。そのセクシーな服、俺の為に? 嬉しいな」
彼女達の背後、二人の丁度真ん中に金髪の男が立っていた。
噂の男はいきなり、二人の肩に腕を回して、耳許で囁いた。
「サンキュ。二人ともよく似合ってる。キレイだよ、姫達」
「リチャード! 来てくれたんだっ」
「待たせてごめん」親指をドアのほうに向ける。「ちょっと馬車の調子が悪くってさ?」
出た。リチャードの王子様気取り。
でも、彼女達にはこんなキザなジョークが超ウケてる。
俺が同じこと言ったら、きっとドン引きされんだろうな。
「さて。姫を待たせたお詫びをしないとな。
俺色に染まってくれた姫達に、赤と黒のカクテルをプレゼントするよ。――ニック」
急に呼ばれて俺はビクッとした。
「姫達にマンハッタンとエンジェル・ティップを。俺はビール。
それから、チーズとドライフルーツを頼む」
すらすらとスマートにオーダーした男は、女性達に微笑みかけながら、
「じゃ、姫達。お席にご案内するよ」
二人の肩を再び抱いて、隅のテーブルに向かった。
俺はお云い付けのものを作り始めた。
マンハッタン。通称『カクテルの女王』と呼ばれる有名なカクテルだ。
ウイスキー、スイートベルモット、アンゴスチュラビターズを、
ミキシンググラスに入れて軽くステア。
カクテルグラスに注いだら、ほんの気持ち、レモンピールを絞るのが俺流。
金色のカクテルピンに刺したレッドチェリーを、グラスの底に飾れば完成。
夕陽が海に沈んでいるような、赤いカクテルだ。
エンジェル・ティップは、その名の通り、『天使の心付け』という意味だ。
リキュールグラスにクレーム・ド・カカオを注ぎ、生クリームを静かに乗せる。
レッドチェリーを刺したカクテルピンをグラスの縁に渡して飾る。
このチェリーが天使からの感謝の気持ちだって言われてる。
見た目はグラスの下から、カカオの黒、クリームの白、チェリーの赤。
女の子の多くが口を揃えて「カワイイ」と叫ぶカクテルだ。
オーダーされた時は気付かなかったけど、両方のグラスにレッドチェリーが入ってた。
この砂糖漬けの真っ赤なチェリーを使うカクテルは、決して多くはない筈だけど。
トレイに二つのグラスを乗せて、三人が居るテーブルへ向かった。
左から、赤い服の彼女、リチャード、黒い服の彼女の順で座ってる。
俺も、せめて一度くらいは、こんなかんじで美女に囲まれてみたい。
イケてない俺じゃムリか。さあ、お仕事お仕事。

(no subject)

2009.08.10 (Mon) Category : memo

自分の部屋で私は本を読んでいた。
研究論文の参考になれば、と思って読み始めたのだが、期待外れに終わりそうな予感がして、
文字を目で追うことが退屈になってきたところだった。

そのタイミングで、ノックの音。
返事をする前にドアが開いたので、多分、彼だろうと知れた。

「ユリウスー」

予想通り、顔を覗かせたのは金髪の男。
彼はリチャード・マークス。私、ユリウス・ローゼンバーグと同じ寮に住む大学生。
大学院生の私より5歳年下だが、寮では彼が最も親しい存在だった。

しかし、今日はやけにニコニコしていて、気味が悪い程だ。
今思えば、この時点で嫌な予感はあったのだ。
悪い誘いなどに乗らず、自分の勘を素直に信じれば良かった。

「なっ、今夜、空いてるか?」

私は机上のハードカバーを見る。参考になりそうもない参考文献。
この本が自分を夢中にさせてくれていたら、迷わず断っていたのに。

「ええ。特に急ぎの用事はありませんが、何でしょう?」

白い歯を見せながら、彼はこう言った。

「そのツラ、ちょっと貸してくれっ!」


煌びやかなネオンが眩しい。
人が行き交う度に、アルコールの香りと生温い夜風が頬を掠める。
夜の街は華やかで、虚しい色をしている。

「全く、何かと思ったら」

私はリチャードに連れられて、夜の繁華街に立っていた。

「どうして私が、君のガールハントに付き合わなくてはならないんです?」

このストリート特有の街灯に照らされて、彼の横顔もオレンジに染まっている。

「だから、言ったろう? そのツラ貸せって。イケメンは一人より二人居たほうがダンゼン目立つからな!」

「私がこういうことに気乗りしないのはご存知の筈ですが?」

彼は舌を鳴らしながら人差し指を振る。そして、ある教授の口癖を引用した。

「ローゼンバーグ君、学生は日々研究だよ?」

「物真似がお上手ですね」

「お前な、院生のくせにフィールドワークの重要性も知らないのか? 机で座ってるだけじゃ、良い論文は書けないぜ?」

「それは解っているつもりですが、専攻が違いますので」

「あっ! あの二人がこっち見てるぜ! ほら、あの赤いスカートの子と赤いバッグの子」

「闘牛ですか、君は」

彼の好きな色が赤なのは知っていたが、つい言ってしまった。
その言葉を聞くより先にリチャードは駆け出していた。

「ハーイ、ハニー。俺の彼女にならない?」

私は頭痛がするようだった。


その後、リチャードは得意の強引な話術で、女性二人と私をアイリッシュパブに連れて行った。
元来、話し上手なリチャードは女性達をよく笑わせた。

彼女達は隣街にある女子大の一年生だと名乗った。一部のサークルなどでうちの大学とも交流がある学校だ。
二人とも夜に映える原色系の装い。ファッションの好みが似ているのだろう。

それに比べ、こちらは全く違う。リチャードは赤、私は白。
派手なファッションを好むリチャードと、その逆のシンプルで落ち着いたものでなければ着れない自分。
時々、何故、彼とつるんでいるのか、自分でも不思議になる。

自分と対極の存在。
だから、彼の全てが不可解で新鮮で。
だから、一緒に居ると、時に苦労させられて、時にラクなのだ、と思う。

「ね。ハニー達は普段、何して遊んでるの? マイブームとかある?」

先程からずっと、リチャードは芸能レポーターさながらの勢いで、遠慮なしにあれこれ尋ねている。
女性に対して失礼ではないのか。
けれど、彼女達はまんざらでもなさそうに答える。リチャードもスマイルを晒しっぱなしだ。

「へえ、そうなんだ。女の子ってホント可愛いね。え、俺? 俺が最近、ハマってんのはジャパンのゲームだな。
最近うちの寮に入ったジャパニーズが持っててさ。あ、こいつとも対戦してんだ。な、ユリウス?」

突然、こちらに振られた。
彼女達の視線が集まる。どこか甘えたような目を居心地が悪く感じた。

「ええ、そうですね、寮のみんなでゲームをすることもありますよ」

意外です、と女性達が楽しそうに笑い合った。
たった1時間前、街でリチャードに絡まれた時より、大分打ち解けた表情をしている。

それが私には不思議でならなかった。
見知らぬ男相手にそう簡単に心を許していいのか、と父親のような心配をしてしまう。
リチャードも楽しそうで、それほど飲んでいないのに、いつもより饒舌に感じた。

息苦しい。この場に居ることが。

女性の甲高い笑い声にさえ、耳を塞ぎたくなる。
1時間は耐えたが、ここまでが限界だ。

ポケットにするりと手を伸ばす。
携帯電話を手にして、静かに席を立つ。三人が同時に私を見上げた。

「すみません、電話が。少し席を外しますね」

はーい、と女性の声。リチャードには目を合わせずにその場を離れた。


店の外に出て、携帯を耳に当てる。
口は開かない。
ただ、店の壁に凭れて、空を見ていた。

星のない夜空。
街の灯りのせいで、星の光が地上まで届かない。
明る過ぎる輝きは、それ自体が罪なのだ。

店の中に戻ってからは、こうだ。
「急用ができてしまった」と言って、先に帰らせて貰うことにした。
すると、意外なことに、女性二人は大層残念がってくれた。
私とは殆ど話していないのに。

私の前に座っていたほうの女性に、連絡先を教えて下さい、と言われたが、「すみません、急ぎますので」と言って、店を出た。
女性に対して失礼だ、大人げない、と思いながら。

あとはリチャードが何とでもしてくれる。彼も私が居ないほうが何かと都合が良いだろう。
引き続き、三人で飲んでいたほうが、楽しい筈だ。

繁華街はタクシーで溢れてる。道路は満天の星空だ。
そのうちの一つを捕まえて、一人で寮に帰った。


「あれ? ユリウス?」

寮に着き、サロンの前を通ると、ケイに声を掛けられた。
隣にシノブも居る。二人でテレビを見ていたようだ。
ケイは日本出身の寮生。初々しさが可愛いらしい、いい子だ。

「リチャードと一緒に飲みに行ってたんじゃないの? リチャードは?」

「パブに置いてきました、彼ならまだ飲んでると思いますが」

思いがけず冷たい言い方になった、ケイが相手なのに。

「彼はまだ飲み足りないようでしたので」

そう続けたが、おや、という目が並んでいる。
ケイはシノブに囁いた。

「ケンカでもしたのかな?」

「ご心配なく、ケイ」

「あ、聞こえた?」

「本当はあまり体調が優れなかったものですから、お先に失礼してきたんです」

それまで黙っていたシノブが「大丈夫なのか?」

「ええ。すみません、心配して頂く程ではありませんよ。
今書いている研究論文が少し行き詰まっていて、睡眠時間が足りていないだけですから」

シノブは疑問を持った目でこちらを見上げている。
その隣で、ケイは純粋に心配していた。

「そっか。院生って大変だなあ。でも、あんまり無理しないでね?」

「ありがとう。今夜はゆっくり眠ることにしますよ。では、おやすみなさい、シノブ、ケイ」

「あ、うん。おやすみ、ユリウス」

シノブからは「おやすみ」が聞こえなかった。


自分の部屋に入ると、やっと気持ちが落ち着いた。
机の上では期待外れの参考文献が待っていてくれた。
当然、読む気にはならず、ベッドに身体を預けた。

その時になって、急激に疲れを感じた。今夜は殆ど飲んでいないのに。
身体が重い。動かない。まるでベッドに沈むようだ。


「おい、ユリウス! って、寝てんのか?」

その声で目が覚めた。
今起きた、ということは、今まで眠っていたのか?
反射的に時計を見る。一時間くらい眠っていたようだ。

「なんだよ、お前まさかマジで具合悪かったのか? なら、なんでそれを言わねえんだよ!」

目の前で怒っているのは、金髪の寮生。

「リチャード」私は身体を起こす。「随分早いお帰りですね、朝まで戻らないと思っていました」

「あのなあ、お前が勝手に先帰るからだろ?」

「おや。私が居てはお邪魔かと思って、気を利かせたつもりなのですが。彼女達はどうしたんです?」

綺麗な色の髪を掻きながら、何かぼそり言った。
聞き取れなくて、聞き返したら、大きな声が返ってきた。

「二人とも、お前目当てだったんだよ!」

まさか。

「嘘でしょう?」

「嘘じゃねえよ! お前が居なくなった途端、じゃあねって帰っちまったんだからな!」

「つまり、ふられたんですか? 君が?」

「そーだよ! って、言わせんな!」

ククと笑いが込み上げてきて、私は余計彼を怒らせた。

「てめっ、ユリウス!」

「すみません。それなら、私は惜しいことをしましたね。君がふられる現場を拝見してから帰るべきでした」

「お前、いい加減にしとけよ」

「失礼しました」

「まだ笑ってるし。お前は二度とガールハントに誘ってやんねーからなっ!」

「ええ、そうして下さい。私も、もうあんな想いはしたくない」

「え?」

「いえ、何でも。今日は色々とすみませんでした」

私が謝ると、彼は不満そうな顔をしながらも、何も言わなくなった。
彼は素直に謝られると弱いのだ。

「おやすみなさい、リチャード」

「あ、ああ。おやすみ」

ドアが閉まる。

再び一人きりになった部屋。
電気を消して、ベッドに入った。


fin

7月の夜

2009.07.25 (Sat) Category : memo

コロナが空になった。

「じゃあ次は、ソレでハイボールにしよっかな」

透明なビール瓶を脇によけて、ソクーロフの前にある茶色いボトルに手を伸ばす。
この人が俺んちにボトルキープしてるスコッチウイスキー、マッカランだ。

煙草を肴に飲んでるドクターは、マイボトルを横目に見送って、また煙草を銜えた。
俺は背の高いグラスに、琥珀の液体とソーダを注いだ。

今夜はソクーロフがうちに来てる。
仕事帰りに外でメシ食って、俺んちで飲む、いつものパターン。

7月も下旬に入ったが、ここ、海を見下ろすコテージは、寝苦しい程じゃない。
窓を全開にすればヘーキ。少し火照った頬に当たる夜風が気持ちいい。

向かいに居るドクターは、相変わらず、ちっとも顔が赤くならない。
この人と飲むようになってから、もう六年も経つのに、まだ一度も、へべれけになった姿を見たことがなかった。
マッカランもロックで飲んでる。オトナだ。ソーダ割りしてる俺がコドモみたい。
スモーキーな苦味が泡と一緒に喉を駆け抜けた。

「そういや、もうすぐジョシュアの誕生日らしいね?」

「よく知っているな?」

「ウーティスの連中がコソコソ企んでるらしいから」

世間的には、そろそろ夏休みの時期だった。
だが、今年は休暇の時期を遅らせている生徒が多かった。去年と同様に。

「誕生日を終えたら、直に卒業だな」

「ついにジョシュアも卒業かー」

「おそらく、当たり年もこれで終わりだろう。嬉しいか? 司令官」

「何イジワルな質問してんの。来年度だって、なんだかんだで忙しいんだからさ、どーせ」

「新しい生徒代表の発表も、もう間も無くだな」

「夏だもんねー」

夏休みが終われば、ガッコは新年度。最高学年の多くが卒業し、在校生は学年がひとつ上がる。
それに伴い、生徒代表の任も後輩へ引き継がれる。去年、テオからジョシュアへバトンが渡されたのも、夏だった。

「たまには賭けてみない? 次は誰がなるか。ね。ソクちゃんは誰だと思う?」

ソクーロフはロックグラスを傾けた後、口を開いた。

「まず、シルヴァンの可能性はないな」

「ナイねー。あいつがなったら、月イチでコスプレパーティが開催されて、警備の制服がサムライ・スタイルになっちゃう」

「何を言っている? シルヴァンの可能性がないのは、あの子も卒業してしまうからだぞ?」

「ああ、そっちの理由で?」

俺は自分のキャメルを取る。
箱を人差し指でトントンしても出てこない。箱を逆さまにする。

「あーりゃ、空っぽだ」

左手でクシャと握り潰す。

「ソクちゃんの、一本ちょーだい?」

テーブルの上をスケートして、煙草が箱ごとやってきた。

「サンキュ」

一本抜いて、自分で火を点けた。
吸ってから思い出した。このヒト、メンソール派なんだった。口の中がミントでいっぱいになる。
ハイボールを流し込んだら、余計にスースーした。

「私、個人としては、あの子の生徒代表姿も見てみたかった」ソクーロフは灰を落としながら「半世紀に一人の逸材が居なければ、シルヴァンが指名されていたかもしれない」

「え、なんで?」

「司令官のお前や島民とも親しい関係を築ける彼だ。さぞ、警備レベルが上がり、生徒と島民の距離が縮まったことだろう」

「でも、警備の武器が刀になっちゃうのは困るぜ、俺達」

「生徒代表に選出されるのは、現在、高等部二年生の子達だから、ウーティスで言えば、ハルヤの可能性もある」

「週イチで早食い大会になっちゃうよー。てか、ハルヤが選ばれたら、『えっ? お、俺?』って本人が一番キョドるんじゃない?」

「生徒代表の素質は充分ある。ハルヤがなれば、一年後には化けているさ。ジョシュアのようにな」

「ま、確かに」

ジョシュアも化けた。13歳の時とは全然違う。
入学当時は大人しいお坊ちゃんだったが、徐々に、いや、やっぱり生徒代表になってから、ぐんと立派になった気がする。

「または、アンリの可能性もある」

「えー。学院案内の時、新入りがビビりまくったらどーすんのー。初日で自主退学しちゃうかも」

「非公認のアンリファンクラブのメンバーが増えるだけだろう」

「どこにあんの、そんなクラブ!?」

「または、アルフレッドがなる可能性もある」

「あー、学院案内はめちゃくちゃウマそうだけど、俺がイロイロ振り回されそうだなー。
って、あんた。可能性可能性って言ったら、誰でも言えんじゃん」

「ああ。誰もが王になれる。王の資質を持っている」

「そんじゃー、賭けになんないね。俺、シャワー浴びてこよーっと」

ソファから立った時に足がふらついた。ハズかしい。思わず、舌打ちしそうになる。しないけど。

ソクーロフは小馬鹿にしたように「大丈夫か?」

「ん。もう年なのかなー、俺」

「30過ぎているからな。今夜はかなり飲んでいるし、シャワーは止めておけ」

「え、でも」

ミントとモルト。クールでスモーキーな匂いがした。


fin

Fw:カーピコ

2009.06.27 (Sat) Category : memo

聖アルフォンソ学院 学生課。
配車係のカウンター前に二人連れの生徒が居た。
担当のオペレータは今日も淡々と職務をこなしていあ。
「明日の17時ですね。ご希望のドライバーはいらっしゃいますか?」
カウンターに肘を突いている生徒が答える。
「誰でもいいよ。あ、ピコってヤツ以外で」
オペレータはピクリとも表情を変えない。
「畏まりました。只今、確認致しますので、少々お待ち下さいませ」
手元のキーボードを叩き始めた。
連れの生徒が尋ねる。
「ねえ。ピコって誰? ヤな奴なの?」
「そうなんだよ。こいつしか空いてない時があって、一回だけ乗ったんだけどさ。
なんか怒ってるみたい顔してて、態度が悪いんだよな」
「ふーん」
お待たせ致しました、とオペレータ。
「では明日17時、正門前にダニエルが伺います。よろしいでしょうか?」
「ああ」
「ピコは空いてんだな? じゃあ、ピコは俺が貰った」
二人の背後から声がした。振り向くと、一人の生徒が立っていた。
長いアッシュブロンドの髪。
「物好きだな、カーディス」
「お前より人を見る目があるもんでね」
カウンターに進み出る。
「つーわけで、明日の17時からピコを借りたいんだけど?」

翌17時。正門前に二台のタクシーが停まっていた。
一台目のドライバーが扉を開ける。
「お車へどうぞ」
二人の生徒を乗せ、発進した。

二台目のタクシーは正門前に残っている。
30そこそこのドライバーは空を見ていた。

17時5分頃、二人の生徒がやってきた。
「またお前さんか」
「悪いかよ」

「なあ、ピコ。今日はこいつに人前でピアノを弾かせてやりたいんだ。
どっかピアノがあるバーに案内してくれないか? あんたなら知ってんだろ?」
「え? ちょっと、急に何言ってんだよ、カーディス! ダーツしに行こうって言ったじゃん」
「るせーな。お前のピアノは、音楽室のベートーベンだけに聞かせるもんなのかよ?」
「でもさ、あ、楽譜も持ってきてないし」
「お前、楽譜なんて要らねえじゃん。で、ピコ、この島にそういう店、幾つあんだ?」
「ピアノバーは三軒だ」
「じゃ、その中で一番客が入る店に行ってくれ!」

マージナルプリンスがピアノを弾くというだけでも、島民は大歓迎だったが、
その演奏が素晴らしかった為、歌姫がピアノに合わせて歌い出す騒ぎになり、
アンコールが続いた。気が付けば、とっくに門限が過ぎていた。
歌姫の「ピコの家に泊めてやったらいいじゃない?」という一言に従うより他になかった。
ピコの家は、南西部の海岸にひっそり佇むコテージだった。
ピコは迷惑そうな顔をしていたが、自分はソファで寝ると言って、さっさと寝転がった。
無愛想な態度ながら、カーディスとシュンにベッドを譲ってくれた。
「でも、シングルベッドだよね。どうする? カーディス」
「どうするもこうするも、ここで寝るしかないだろ」
カーディスはベッドの奥に詰めて横になる。シュンはベッドの前で立ち尽くしていた。
「何つっ立ってんだよ、シュン。来いよ。場所、空けてやってんだろ?」
「あ、うん。でも、あの」
「俺がお前を襲うとでも思ってんのか?」
「なんか、カーディスって、寝相が悪そうで、やだなって」
「そんなこと言うなら、入れてやんない。お前は床で寝てろ」
「えっ? やだよ。俺もベッドがいい」
シュンもベッドに入った。


二人は背を向け合って、横になった。
「ね、カーディス。もう寝ちゃった?」
「ん?」
「タクシードライバーの家で寝るのなんて、初めてだよね」
「ああ」
「あのさ、聞こえる? 波の音」
耳を澄ますまでもなく、先程からずっと耳に入ってくる。
普段は聞き慣れない音だが、だんだん心が落ち着いてくる音だった。
「聞こえるけど?」
「良いよね。海が弾いてる子守唄みたい」
「そーかー? 海が近いと、津波の時、ヤバイだろ」
「あ、そっか」
「ピコはもう寝ちゃったのかなあ?」
「さあなー」
「あのね、カーディス」
「お前、寝れないの? もう二時過ぎてんだぞ?」
「もう。せっかく『今日はありがと』って言おうと思ったのに」
「遅いんだよ、シュンは。この、のろまが」
「の、のろまなんて言わなくても」
「あれくらいで満足してんなよ。お前のピアノは、
もっとたくさんの人に聞かせてやんなきゃダメなんだから」
「どうして?」
「たくさんの人の前で弾いて、有名になって、レコードにならねえと、
学校を卒業した後、俺、お前のピアノ、聞けなくなるだろ?」
波の音がした。
「カーディスって、いっつも勝手で、自分のことしか考えてないな」
「当たり前だろ」
寄せては返す波。
海が奏でる子守唄を聞きながら、二人は眠りについた。


fin

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